本記事は、「購買・調達に必要な新しい運用モデルとデジタル改革:パート3」を元に作成した記事です

企業の購買業務変革と、ビジネスの価値創出をどのように加速させていくのかについて深堀りした3部構成のブログ記事の最終章になります。購買調達を単なる企業のコスト部門ではなく、ビジネスを成長させる部門に改革していくために必要な要素について考えていきます。

パート1では、購買部門はどのようにその業務プロセスを進化させ、俊敏で主体性があり、積極的に業務支援を進めるような働き方に移行してくべきかについてお話ししました。パート2では、最も重要な資源である人材について取り上げました。企業が必要とする人材は多様性があり心の知能指数(EQを備え、そしてイノベーション的であると同時に、部門の垣根を超えたチームワークを発揮できる人物であり、価値の創造を第一に考えられるプロジェクトマネージャーであるべきと説明しました。

この最終章では、テクノロジーとその検討すべき事項と課題、そして次世代の購買組織にとってテクノロジーが重要な理由について考えていきます。テクノロジーは、未来の購買調達の業務運用には必要不可欠な構成要素です。しかし、未だに多くの企業の購買組織はテクノロジーを取り入れる初期段階にいます。適切なテクノロジー導入の計画と組織の展望を持つことで、戦略的購買組織のベストプラクティスの実現、継続した価値創出レベル4の購買に注力することができます。

私はこれまでに2度、キャリアの中でソース・ツー・ペイのプラットフォームの導入を進めるプロジェクトを推進していたため、私自身の経験とその過程で得た教訓をお話しします。

テーブル席を要求

購買部門は適切な製品やサービスを見つけ出し、複雑なビジネス上の課題を解決することには長けていますが、組織が必要な資源に関して主導することは苦手と言えるでしょう。

同業者からは、技術投資を確保する方法や、他の戦略的投資と比較して、BSMビジネス・スペンド・マネジメント)プロセスのデジタル化を優先させるために、何をしたのかという質問を頻繁に受けます。次のような基本的な疑問や課題について、慎重で戦略的に検討すべきだと考えています。

  • なぜデジタル化が必要なのですか
  • デジタル化は会社の戦略目標をどのように貢献できるのでしょうか?
  • ビジネス、購買、財務、IT部門にとって、デジタル化はなぜ重要なのですか
  • なぜBSMプラットフォームの導入は、ITや財務ではなく、購買・調達部門が検討をすすめるべきなのでしょうか?
  • なぜ購買がBSM (ビジネス支出管理)戦略を推進すべきなのですか
  • BSM(ビジネス支出管理)のデジタル化で、最も大きな価値をもたらすのは誰ですか?
  • どのプラットフォームが最も高いROI/アドプションを期待できますか?また、最大の価値を生み出せるのでしょうか?

私は以前、lululemon athletica inc.とVF Corporationの両社で(通常のERPプロバイダーを利用し)、時間をかけてIT部門との強力なパートナーシップを確立しました。各リーダーは、自分たちの課題を満たすためだけの“何か”ではなく、ビジネスにとって本当に必要な“何か”を理解しようとしてくれました。これにより、「1社のみ」の製品を使用することから発生する課題やリスクを軽減し、ERPソリューションのプロバイダーから準最適な製品だけを検討するようになりました。 その結果として新しいテクノロジーの導入を検討する際は、価値、ベストプラクティス、製品の展望、エンド・ツー・エンドのソリューション、そして最も重要なエンドユーザー・エクスペリエンスに焦点を当てました。

残念ながら多くの購買調達の専門家は複数のソリューションを比較するのではなく、特定のソリューションを選ぶ理由を明確にできず、これらの重要な意思決定を他部門に委ねてきました。例えば、IT部門に購買・調達のプラットフォームの選択を委ね購買調達の業務特性や機能が不適切なままでシステム導入された結果として、財務/経理チームがエンド・ツーエンドのビジョンを持たずに、支払(APの自動化が優先されるときです。このような状態が起きた時、企業は既存の問題を解決するために別のソリューションを導入しますが、上流や下流では別の問題がいくつも発生します。          

エンドユーザーや、業務を理解した部門を意思決定に関与させず、経営層の意識が変化してない状態でリューションを展開しても、組織全体のニーズは満たされないままです。  

BSM(ビジネス・スペンド・マネジメント)のプラットフォーム選定過程は、ITや財務ではなく購買調達部門が主導すべきだと、私は確信しています。購買調達責任者(または購買部門内の別の幹部)は、経理責任者、情報システム部門の責任者、そして他部門で横断的に幹部との連携しながら、その選定プロセスではリードしていくべきです。

私は車を買うという例え話をよくします。自分に問いかけてください。あなたは自分の仲間に、矛盾した定義や基準で車を買わせますか?機能的な問題を抱え、メンテナンスや整備が大いに必要な安い車を買わせるでしょうか? ガソリンが2倍必要で、安全性が不十分な車を買いますか?

選択基準を設定するのは当然ですが、これは関連する他部門のステークホルダーを横断的に巻き込んだ共同プロセスであることを認識すべきです。

その認識があることで、実際の制約の中で適切な選択基準が定められ、より円滑にシステム導入が可能になります。

ステークホルダーを巻き込まずに購買部門だけでプロジェクトを単独的に進めるのではなく、全員で共に進めるいう姿勢で臨まなければなりません。前述したように、私たちは人々をバスに乗せたいと思っていますが、そのバスを運転するのは私たち自身でなければなりません。

企業はテクノロジーの導入を検討すべき時期である点に注目すべきです。この1年間の出来事を振り返った時に、購買部門は迅速にそして自主的に行動すべきであり、行動にしない理由はありません。

リスクを理解し業務変革の必要性を唱える

購買部門が今まで購買調達のテクノロジーの必要性について主張してこなかった理由として、リスクを恐れていたからです。購買責任者は自身のキャリア形成の中で、経理責任者と対抗して、新しいテクノロジーの導入を主導していくべきです。

購買部門が新しくデジタル化のアイデアを出すと、IT部門は「自分たちが主導する」と主張します。IT部門は、統合、メンテナンス費、データセキュリティ、そしてIT部門にとっての意味を理解したいのです。彼らが指揮を執りたいと思うのはその役割の性質上当然のことであり、IT部門と購買部門の横断的な連携は改革をスムーズに進められます。

しかし、彼らの疑問や懸念に対応する必要がある一方で、まさに購買部門だけがビジネスの必要性を把握、理解して、ビジネス支出に関して短期、中期、長期的に正しい判断を下すことができます。

私がlululemon athletica inc.やVF Corporationで勤務していた時も、このような状況にありました。多くの場合、情報システム部の責任者は自分が慣れ親しんだテクノロジーを導入したいと考えるでしょう。多くの人たちは、SAPやOracleにソリューションを求める衝動に駆られ、「スイッチを入れる」とすぐに処理できると考えています。これは長年行われてきサイクルです。

先行投資も少なく、サブスクリプション・コストもTCV(Total Contract Value:総契約価値)の中に組み込まれていることが多いからです。

しかし現実には、このようなシングルポイント・ソリューションは、表面上はコストが低いように見えても、多くの価値を考えず、システム統合と実装を必要とし、コストは他の部分で隠蔽されることが多いのです。以前のブログ記事「購買責任者の見解、 ITと購買調達の連携を促進することが重要な理由」で紹介したように、次の項目について考慮することが重要と言えます。

情報システム部の責任者としての最初のルール:恐竜になるようにソフトウェアに恋してはいけない

そもそも必要だと認識していなかったデータや新規の機能にアクセスできる世界を想像してみてください!

価値に注力する

購買責任者は成功とは何かを理解し、説明するために事前の調査をする必要があります。つまり、ビジネス要件を定義して説明する一方で、ユーザーやサプライヤーの導入状況、エンド・ツー・エンドのプロセス、価値を生み出すスピード、システム統合などについて説明する必要があります。多様なプラットフォームがどのように構築されているかについても話し合う必要があり、これにより実際のコミュニティインテリジェンスへのアクセス、ベストプラクティスの活用能力、企業や業界の垣根を超えて協調することで

利点が生まれる可能性があります。実績を継続的に向上させ、プラットフォームから多くの価値を継続的に引き出すことができるのです。

そもそも、必要だと思っていなかった新しい特性や機能にアクセスできる世界を想像してみてください!

購買責任者がすべての要件を理解すれば、自信を持って情報システム部の責任者に対して、何が必要なのか、そしてさらにそれが重要な理由を明確に説明することができます。これができる購買専門家は、経理責任者や最終的にはCEOに対しても、自身が進めてきたプロジェクトに対しても自信をもって説明ができます。そして、自身のキャリア形成で大きな転機にすることができます。

それは同時に、自身が進めたプロジェクトの進行によっては、キャリアを絶たれる可能性があるとも言えます。このように仕事を進めるには、適正評価を行い、特にIT部門と信頼関係を築く必要があります。そのためには、エンド・ツー・エンドのBSMソリューションを導入することで、何が不要になるのかを説明することが一つの方法です。例えば、ERPに統合されたスキャンエンジンはもう必要ありません。統合された機能を維持するために頻繁に設定や調整をする人材も不要になります。銀行システムとの統合など、システム管理や業務プロセスの適合性は大幅に容易になります。ソーシングから支払までをひとつのプラットフォームで処理することは、拡張性があって、世界的なルールや規制に準拠しています。

IT部門は組織の中でも最大の支出部門であることを忘れてはなりません。IT部門は組織全体のあらゆる支出を完全に可視化することで、大きなROIになります。

最後に、私が重要視している選択基準をお伝えします。それは、サブスクリプションの費用ではなく、常に価値を重視するということです。50万ドルの投資で2倍のROIを得るよりも、100万ドルの投資で5倍のリターンを得る方が、明らかに高い価値を生み出しているといえます。

結論

適切なテクノロジーの選択は、決して容易ではありません。テクノロジーの導入に失敗し、事業の混乱によって会社の評判や価値を低下させ、さらには会社に数百万ドルの損害を与えた例は数多くあります。正しい判断を下すためには、頑固たるリーダーシップ、明確なビジョン、部門間の連携、経営陣のサポートが必要です。

BSM (ビジネス・スペンド・マネジメント) のソリューションを選択する際には、購買責任者が自ら手綱を握り、適切なプラットフォームを選択する責任(説明責任)を担うことを強くお勧めします。

プロセスを自分の部門と捉え、その価値がどこにあるのか、そしてビジネスにとって何を意味するのか、それらの項目を適切に説明できないからといって、最適ではない結果を受け入れてはいけません。

あらゆる機能や最新技術を搭載した最新の高速車が、市場で高価格売買されている理由は簡単です。そして、新しいテクノロジーの導入も同じように、競争相手よりも一歩先を行きたいなら、価値に注力したテクノロジーを選択することが成功へのカギとなります。