いま求められるのは、変化に対応できる幅広い購買改革
セッション前半は、購買改革の実現について瀬尾氏が解説。冒頭、購買改革が求められる背景として、社会環境や事業環境の変化に言及しました。「災害・地政学リスクへの対策及びレジリエンスの向上、ESG・SDGs強化、ニーズの多様化による業務の複雑化、人的リソースの不足といった課題に企業は直面しています」と瀬尾氏。
企業が抱える課題解決に向けた購買改革はこれまでも行われてきました。しかし「従来の取り組みは、購買プロセスのみの見直し、Tier1サプライヤーに限った関係強化、一部のカテゴリーに対するコスト削減など、限定的な変革にとどまる傾向がある」と瀬尾氏は指摘します。
これに対し、企業の競争力を高めるテクノロジー導入のためには、サプライチェーン全体を俯瞰した変革や、Tier2以降のサプライヤーも含めたリスク管理、会社全体の支出に関わるコスト削減といった幅広い購買改革が求められています。
その上で、瀬尾氏は調達・購買業務の目指すべき姿をセクションごとに紹介しました。
①VRO(Value Realization Office):調達・購買改革の全体を包括し、プラン策定、推進、監視を行う組織。データ活用ができる人材を配置し、課題を分析して改革を実行
②ソーシング:購買機能を集約して平準化し、カテゴリーの専門家を配置して価値を最大化
③業務プロセス:プロセス、データを集約して標準化し、必要に応じてシェアードセンター化
④共通調達システム・データレイク:要件が複雑化すると購買改革の成功確率が下がってしまうため、基本は「Fit to Standard」
「目指すべき姿の実現が、購買コストダウンやガバナンス強化、オペレーションの高度化・効率化、サプライヤー管理へとつながります。そしてこれらを支えるのが購買及びサプライヤーのデータ活用です」と瀬尾氏。
システム導入の先を見据えた改革が必要
では、購買改革を実現するためにはどのようなシステム導入のアプローチが必要なのでしょうか。この点について瀬尾氏は、「システム導入前の構想フェーズで、購買改革のゴールとロードマップの策定をしっかり議論することが最初のステップ」だと言います。
構想フェーズで ①プロジェクト憲章作成、②購買組織改革、③データ利活用方針検討 をきっちり定義しておくことが、スムーズなシステム導入につながります。「システム導入自体を目的にするのではなく、システム導入による購買改革で何を実現したいのかを意識することが重要」だと瀬尾氏は強調します。
システム導入自体が主目的となる、あるいは購買改革の効果まで検討が及ばないと、購買改革を見据えたシステム導入はできません。購買業務の改革契機であることをCXOにコミットし、トップダウンで全社的に購買改革の方針を決定することが必要になります。
そのほか、購買改革には種々の課題がありますが、「購買改革に求められる姿勢は、現状の業務への理解と敬意、そして改革達成への熱意。その上で標準化・一元化・集約化に取り組み、改革を推進しきること、継続して効果を出していくことが求められる」と瀬尾氏は主張しました。
AI活用を目的とした購買改革事例
セッションの後半は亀山氏が登壇し、購買改革を実現したA社の事例を紹介。改革の概要は、拠点ごとに組織や人材、プロセス、システムなどが標準化、統一化されていない現状について、①集中化 ②標準化 ③一元化 の3つのテーマを目指すべき姿とし、トップダウンで改革を進めるというものです。
亀山氏は、A社購買改革のロードマップを ①導入前、②導入直後、③導入2~3年後 の3つのフェーズに分けて説明。
①導入前:購買改革の方針・KPI策定、優先的に着手するカテゴリの選定、厳格な業務の断捨離(必要性を説明できなければ標準化)
②導入直後:改革状況のモニタリング、カテゴリ拡大、プロセス標準化
③導入2~3年後:蓄積データによるAIの活用
「システム導入だけでなく、数年計画でAI活用までを主眼に置いていたからこそ改革が実現できました」と亀山氏は強調します。
従来のPMOを超えるVROで価値創造を推進
ロードマップの詳細に関して、亀山氏はまず、アクセンチュアによる購買改革の特徴的な組織、Value Realization Office(VRO)について解説。「従来のPMO(Project Management Office)が計画通りのプロジェクト推進を重視するのに対し、VROはプロジェクト管理に加えて実現したい価値を設定し、そこから逆算して価値創造が計画通りに進むよう管理する部門である」と亀山氏は述べます。
ソーシングについては、「コスト削減の効果を策定するにあたり、支出の実態を把握することから始めた」と亀山氏。実態を明らかにした上で優先するカテゴリーを順位付けし、まずはクイックウィンで削減施策を実施して効果を試算。このサイクルを回して、全体のカテゴリーへと削減を拡大していきました。コストの分析にはAIを活用し、ゼロベースで支出を分析、カテゴリーを整理し直して優先順位の決定につなげました。
また、「アクセンチュアは企業の皆様の購買改革をEnd to Endで支援します」と亀山氏。購買改革に際しては、カテゴリーごとにアクセンチュアのエキスパート部隊が伴走し、人材が不足している企業に対しては人材育成のサポートも可能であると提案しました。