「PROmarche」の整備
新しい社会のパラダイムを洞察し、その実現を担う――野村総合研究所(NRI)は、豊富な経験・知見を活かしたコンサルティングとITソリューションの提供を通じて、企業活動や行政、社会基盤の構築を幅広く支えている。コーポレートステートメント「Dream up the future. 未来創発」は、変化が激しく予測の難しい時代において、確かな未来を切り拓きながら新しい価値を創造し続ける、という強い決意を示したものだ。同社 業務・調達管理部 部長の廣 卓郎氏は次のように話す。
「NRIグループでは、デジタル変革(DX)の成熟モデルを、既存ビジネスの変革に寄与するステージ、デジタル技術で新しいビジネスモデルそのものを生み出すステージと区別し、それぞれのステージにあるお客様に最適なコンサルティングとITソリューションを提供しています。NRIがお客様のDXの実現をご支援していく上では、プロジェクトチームを編成するための人材のアサインや、 IT製品やサービスを提供してくれるパートナー企業との協業が欠かせません。この過程では先進的かつ多様なニーズに対応できる調達が求められます」
NRIグループが、全社の「調達改革プロジェクト」を立ち上げたのは2020年である。廣氏は、業務・調達管理部 部長としてNRIグループ全社の調達戦略の策定・実行を担うとともに、本プロジェクトの責任者として調達改革をリードしている。
「クラウドサービスの普及やサブスクリプションモデルの一般化など、調達する商材の『所有から利用へ』の急速なシフトが、私たちのビジネス環境の変化を象徴するものです。一方、NRIグループ内を見渡すと、エンジニアなどの『ヒト』、 IT製品などの『モノ』、クラウドなどの『サービス』を、社内外から調達するための仕組みが各社に縦割りで整備されており、横断的な調達を効率良く行えないことが課題となっていました」と廣氏は話す。
調達改革プロジェクトは、この課題を一掃するために「全体視点での体制・システムの再設計」を進めてきた。そして、Coupaの総支出管理ソリューションを採用した、統合的な「PROmarche」の構築が進められている。
CoupaをNRIグループ計7,000ユーザーが利用
2023年3月、Coupaの導入・活用はグループ企業であるNRIデジタルへのトライアル導入から始まった。この成功を受けてNRIへの導入に着手。Coupaは、直接材の実質的なバイヤーである「事業部門」、ヒト・モノ・サービスを提供する「ビジネスパートナー/ サプライヤー」、そして「調達管理部門」の3者が適正かつ合理的に調達業務を行うための中核機能を提供する。
「サプライヤー登録やトレーニングなどの準備を経て、NRIでも2023年11月よりCoupaの本格的な利用を開始しています。調達改革プロジェクトが掲げた目標は大きく2つ。『調達業務の合理化』と『サプライチェーンマネジメントの高度化』です」と廣氏は力を込める。
NRIグループにおける顧客へのコンサルティングやIT ソリューションの提供は、典型的な「フルカスタマイズ型」だ。受注案件単位で「ヒト」「モノ」「サービス」を最適に組み合わせなければならない。様々なビジネスパートナー/サプライヤーを対象とする調達プロセスは、案件規模が大きくなるほど複雑さが増す。
「まず、複数あった調達システムをCoupaに統合し『調達業務の合理化』に向けた基盤を整えました。そして、事業部門が見積・選定を行うソーシングプロセスと、調達部門が実施するパーチェシングプロセスをシームレスに統合できるように工夫しています」(廣氏)
NRIグループにおいて調達の大きなウエイトを占めるのが、プロジェクトチームの編成に象徴される「ヒト」の調達だ。事業部門にとっては、顧客プロジェクトの成否を左右する重大事である。求められる高度なスキルを備えたチームを編成するには、業務委託先となるNRIのグループ会社やビジネスパートナー、人材派遣会社などの協力が欠かせない。フルカスタマイズの事業特性に合わせ、「ヒト」に関わる見積依頼やパートナー選定については、事業部門が柔軟にビジネスパートナーと事前調整できるようにし、決定した仕様をシームレスに発注につなげられるように設計した。
「事業部門とビジネスパートナー双方の利便性を考慮しながら、『共通化した調達プロセス』と『個別の調達プロセス』の線引きを慎重に詰めていきました。結果として、調達業務の合理化という目標と、ビジネスの現場でのニーズをバランスよく両立させることができたと考えています」と廣氏は話す。
調達改革プロジェクトが掲げた目標は『調達業務の合理化』と『サプライチェーンマネジメントの高度化』です 業務・調達管理部 部長 廣 卓郎 氏
数千社のサプライヤー管理を統合化
本格的な活用が始まって半年、Coupaはバイヤーである事業部門の調達業務を大きく変えつつある。「ヒト」「モノ」「サービス」を網羅し、サプライヤー管理から見積依頼、契約管理、発注・納品・受領管理、請求管理までをCoupa上で一貫して行えるようになったことが最大の変化だ。業務・調達管理部 調達改革推進室の白木 秀明氏は次のように話す。
「顧客プロジェクトの中で、1社のビジネスパートナーから多数の製品やサービスを調達するケースは珍しくありません。従来は『ヒト』『モノ』『サービス』でシステムが分かれていたため、見積依頼にもそれぞれのシステムを使い分ける必要がありました。Coupaによって横断的・統合的な調達が可能になり、業務の効率性とスピードが向上しています」
数千社のビジネスパートナー/ サプライヤーの管理が統合された効果も大きい。従来より大手ビジネスパートナー/ サプライヤーの複数の事業部門と、複数のグループ会社や事業部門との間で取り交わされる契約書類は増大傾向にあり、煩雑な手続きが現場を悩ませてきたという。
「ビジネスパートナーの管理が統合されたことで、基本契約書や同意書などの共通化を進めやすくなります。管理が複雑化している会社間・事業部間のやり取りを、今後大幅にシンプル化できるものと期待しています。CoupaはDocuSignとシームレスに連携しているため、電子契約でこれを実行できるメリットも大きいですね。Coupa導入により複数のシステムを介する必要がなくなり、導入前と比較すると、契約締結にかかるリードタイムが大幅に短縮できています」(白木氏)
共通化した調達プロセス』と『個別の調達プロセス』の線引きを慎重に詰めていきました 業務・調達管理部 調達改革推進室 室長 白木 秀明 氏
「調達の合理化」の先に目指すもの
調達データの分析、会計など業務システムとの連携、ECサイトとのパンチアウト連携、サプライチェーンマネジメントの高度化など――Coupaを中核とする「PROmarche」には、NRIグループのビジネス要求に応えるために様々な工夫が盛り込まれた。システム開発を担当したDX基盤事業本部 札幌ソリューション開発一部の佐々木 匠氏は次のように話す。
「直接材と間接材の両方を扱い、NRIグループへの展開とグローバル共通化をも視野に入れた調達プラットフォームを実現するために、Coupaを中心に複数のSaaSをインテグレーションしています。広範な要件に応えるための主な強化ポイントは、ソーシング、データ分析、サプライヤー管理の各機能です。『調達業務の合理化』を支え、その先のビジネス目標に応えるために、システム連携を含む調達プラットフォーム全体の設計に私たちの知識と技術を注ぎ込みました」
調達改革プロジェクトは間接材のカタログ整備も進めており、集中購買の更なる推進により調達コストの削減を目指しているという。廣氏は、「NRIグループへの展開は、すぐに効果が出せる間接材の集中購買とサプライヤー管理から着手していくことになるだろう」と話しつつ次のように結んだ。
「データ分析を通じた『調達の高度化』が現在掲げている目標のひとつです。調達コストを削減するだけでなく、ビジネスパートナーとより良い協力関係を築いていくためにも高度なデータ分析は欠かせません。調達の高度化を進めながら、よりお客様価値の高いコンサルティングとITソリューションを提供し、NRIグループとしての事業成長に結びつけていく、より良い社会への変革に寄与していくことがその先に続く大きな目標です。『PROmarche』をフルに活用し、より大きな成果を獲得するために、Coupa Japanには継続的なアドバイスとサポートを期待しています」
システム連携を含む調達プラットフォーム全体の設計に私たちの知識と技術を注ぎ込みました DX基盤事業本部 札幌ソリューション開発一部 GM 佐々木 匠 氏