Coupa SCD&Pは、恣意性を排除しつつ様々な要素を考慮した再編プランの導出に大きな威力を発揮しました 株式会社ジェイアール東日本物流株式会社 営業本部 企画ユニット マネージャー 藪原一暁氏

株式会社ジェイアール東日本物流株式会社 営業本部 企画ユニット マネージャー 藪原一暁氏

コンビニ向け「エキナカ物流」の最適化に着手

ジェイアール東日本物流は、1988年に設立されたJR東日本グループ唯一の物流会社である。各駅に展開するコンビニ向けの「エキナカ物流」、レール等の重量物をはじめとする多様な鉄道資材を扱う「鉄道関連物流」の2つを軸に、同グループのサプライチェーンの中核を担う。新幹線とトラックを組み合わせたユニークな当日配送サービス「はこビュン」も好評だ。営業本部 企画ユニット マネージャーの藪原一暁氏は次のように話す。

「物流ネットワークの全体最適化を目指して、拠点と配送ルートを全面的に見直すプロジェクトが本格化しています。多様な温度帯に対応するSCM統合拠点(Distribution Center)を新設し、これと連携する通過型倉庫(Transfer Center)を3拠点に集約する計画は実行段階に入りました。プロジェクトの立ち上げから様々な仮説・検証を経て、およそXXか月というスピードで経営トップの意思決定とビジネスパートナーとの合意まで漕ぎつけました」

再編の対象は、JR東日本の各駅に展開するコンビニ向けの「エキナカ物流」である。ジェイアール東日本物流は、メインの荷主であるリテール事業者の2工場とJR東日本管内の主要駅およそ800店舗を結ぶサプライチェーンを構築。5つの自社物流センターと協力会社が連携する定期トラック配送、駅構内の店舗配送を担っている。

「エキナカ物流は私たちの収益の60%を占める中軸事業ですが、コロナ禍で受けたダメージから完全に回復できたとは言えない状況です。拠点集約による高効率なサプライチェーンの実現は喫緊の課題でした。深刻なドライバー不足が予想される2024年問題への対応も急がねばなりません。本プロジェクトは、ジェイアール東日本物流の強みである『駅配送ネットワーク』を強靭化し、新たなビジネス成長を支えるインフラ整備としても位置づけられるものです」(藪原氏)

「安全」を最優先しながら配送の効率性を追求

エキナカ物流には、市中のコンビニへの配送とは大きく異なる要件がある。中でも駅構内での安全規則の遵守は最も重要だ。藪原氏は次のように話す。

「駅構内店舗への商品配送では、『安全』を最優先しながら効率性を追求しなければなりません。駅の営業時間を考慮しつつ、限られたバックヤードで欠品を起こさないための配送計画を組み立てる必要もあります。トラックの駐車スペースから店舗までの距離が長いことも特有の課題でしょう。私たちは、長年にわたりこれらの要件や制約と向き合いながら成果をあげてきました。今回のプロジェクトは、より高い目線で物流ネットワーク全体を最適化し、より大きな効率化とコスト削減を目指すものです」

ジェイアール東日本物流では、統合した複数の事業の物流機能を継承してきた経緯から、システムや設備、業務フローなどが個別に最適化されてきたという。本プロジェクトは、こうした課題の解決に向けた大きな一歩ともなる。

「全体最適の視点から拠点と配送ルートを見直すために、荷主様をはじめ関係者の意見を集約しながら複数の仮説を立案し、現場の知見を交えて期待できる効果を定量的に検証していく手順を採りました。このプロセスで重要な役割を果たしたのが、CoupaのSupply Chain Design & Planningソリューションです。エキナカ物流特有の要件を加味したシミュレーションが可能で、経験豊富なメンバーが納得できる結果を得られることがCoupaを選定する決め手になりました」(藪原氏)

26の再編シナリオを、Coupa SCD&Pで5つに絞り込み

CoupaのSupply Chain Design & Planning(SCD&P)は、デジタルツインによって現実世界のサプライチェーンをシステム上で再現し、サプライチェーン全体の可視化、コスト評価、意思決定などを可能にする。ネットワーク、生産と在庫、輸配送ルートの最適化を通じて利益を最大化するとともに、市場や為替など環境変化に伴う影響を予測して事業リスクを最小化することが可能だ。

「拠点配置と配送ルートの最適化には、関係者それぞれの経験や考え方があり、いわば無限のシナリオがあります。Coupa SCD&Pは、恣意性を排除しつつ様々な要素を考慮した再編プランの導出に大きな威力を発揮しました」と藪原氏は話す。

2022年初頭より始動したプロジェクトは、①仮説・検証のテーマ設定、②立地、拠点数、拠点規模、拠点機能などを考慮した再編シナリオの策定、③Coupa SCD&Pによるシミュレーションで物流総コスト(輸送・荷役・保管)を評価、という手順で進められた。ゴールは、需要量に見合った物流拠点の数と役割、最適な立地を見極めることだ。

「物流体制が過剰になっている個所はないか、ドライとチルドの混載の効果をもっと高められないか、拠点にどのような機能を持たせるべきか――こうした議論を重ねながら、並行してCoupa SCD&Pによりグリーンフィールド分析を行い、定性・定量の両面から拠点配置と配送ルートの再編をゼロベースで検討していきました。DCを1拠点に集約するか、2拠点体制とするかは、大きく意見が分かれたところです。議論を尽くした結果、私たちが策定した初期の再編シナリオは26にも及びました」(藪原氏)

Coupa SCD&Pは26シナリオに対する検証で大きな威力を発揮した。本検証の目的は、物流拠点間、物流拠点と配送先をつなぐネットワークの最適化だ。

「Coupa SCD&PのNetwork Optimization(NO)を活用し、26のシナリオに対して直線距離によるシミュレーションを行いました。私たちは、NOで得られたスコアを考察するとともにコストや効率性を慎重に評価し、26あった再編シナリオを5つにまで絞り込みました」(藪原氏)

実際の道路地図を用いた走行距離ベースのシミュレーション

検証の第2段階では、5つに絞り込まれたシナリオに対して、より現実に近い条件を加味したシミュレーションが行われた。ここでは、Coupa SCD&PのTransportation Optimization(TO)により、実際の道路地図を用いて走行距離ベースで最適ルートが算出された。

「NOでおおよその筋道をつけ、TOで実際の配送ルートまで落とし込むイメージで検証を進めました。TOによるシミュレーションでは、拠点数と立地、拠点規模、拠点機能、トラックの台数を最適化することを目指しました。制約条件として、物流拠点や配送先の場所、トラックの積載量、ドライバーの拘束時間などを設定。最小化すべき指標は、輸送・荷役・保管にかかるトータルコストです」(薮原氏)

Coupa SCD&Pは、1台のトラックにドライとチルドを混載するような条件や、トラックが駅に到着してから納品作業を完了させるまでの時間、駅や店舗の営業時間などを設定でき、エキナカ物流固有の要件にきめ細かく応えることができる。プロジェクトは、Coupa SCD&Pによるシミュレーションと考察を繰り返しながら、全体最適の理想に大きく近づく再編プランを取りまとめた。

「2023年4月、TOに着手してから1か月ほどで5シナリオの検証を完了し、採用を決定した最終シナリオに基づいて新しい拠点配置の計画を具体化することができました。Excelベースの手順では、制約条件を限定しても5シナリオの検証には半年以上を要したでしょう。これを1/5以下に短縮できたわけです。制約条件を変えながら様々なパターンで検証を繰り返すことができたことも、Coupa SCD&Pならではのメリットです。まさに、デジタルツインとシミュレーションの威力を実感させられました」(薮原氏)

Coupa Supply Chain Design & Planning によるシミュレーションフロー

新たな事業成長に向けた戦略的基盤整備

2023年10月、ジェイアール東日本物流は、多様な温度帯に対応するSCM統合拠点(DC)の新設と、これと連携する通過型倉庫(TC)の3拠点への集約に着手した。

「荷主様と私たちの間に共通の課題認識があったことが、プロジェクトの大きな原動力となっています。計画を具体化するにあたっては、Coupa SCD&Pが示した科学的な根拠のおかげで、スムーズに合意形成を図ることができました。Coupa SCD&Pは優れたシミュレーションツールですが、プロジェクトに参加してくれたメンバーの様々な知見を活かしたシナリオ策定や考察があったからこそ、明確なゴールに辿り着けたものと考えています」と藪原氏は話す。

Coupa SCD&Pは、新規事業の実現性や収益性の検証など様々なシミュレーションに適用できる。藪原氏は、エキナカ物流の最適化プロジェクトを起点に、Coupa SCD&Pの活用をさらに進めていく考えを示した。

「ジェイアール東日本物流の強みである『駅配送ネットワーク』を、よりオープンな形に進化させていきたいと考えています。駅を基点に街エリアまでネットワークを拡大すれば、駅コンビニで商品を扱う食品・菓子メーカー様などの物流合理化や、2024年問題への対応にも貢献できるはずです。ポスト・コロナ時代における持続可能な物流の実現に大きく近づきます」

その先には、JR東日本グループ関連事業で培った物流システムの更なるオープン化を進める構想もあるという。こうした取り組みは、JR東日本グループの大きな資産である「エキナカ経済圏」の拡大につながるに違いない。藪原氏は次のように結んだ。

「仮説・検証による意思決定、データとシミュレーションによる計画の具現化――Coupa SCD&Pは、私たちの常識を変え、仕事のやり方をデータ指向に進化させてくれました。ジェイアール東日本物流の新たなビジネス成長を支えるインフラとして、Coupa SCD&Pの活用レベルを高めていきたいと考えています。Coupa社には、ユーザートレーニングを含め継続的なサポートを期待しています」