働き方改革や人口減少などの影響を受け、物流業界では労働力不足が深刻化しています。さらに小口配送の増加や再配達による負担など、業界全体が解決に取り組まなければならない問題が山積みの状況です。

このような状況において課題を解決するためには、サプライチェーン全体に目を向け、物流を含めた一連のプロセスを改善と効率化を進める必要があります。物流業界の課題や最適化、サプライチェーンの見直しも含めて考えるべきポイントについて解説します。

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グローバルサプライチェーンリーダーは2022年から何を学び、2023年にはどのような課題を予測しているのでしょうか。また、企業のたちは今後の起こりうる事態に対し、どのような備えをしているのでしょうか。貴社の優先事項は、同業他社と比べてどうでしょうか。

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物流最適化とは

物流最適化とは、物流業務における一連のプロセスと各プロセスで発生する業務や手順を最適化し継続的な改善に対する取り組みのことです。ここでいう「物流」とは、工場で生産した商品を顧客のもとへ届けるまでの流れのことを意味します。

近年では、インターネットやEC(ネット販売)の発展から、ますます物流需要が高まり続けています。物流にかかわる業務を見直し最適化を図ることは、物流業界における労働力不足や従業員の労働負担軽減など、さまざまな課題を解決するために必要不可欠です。

物流とサプライチェーンの関係性

物流とサプライチェーンは同じ意味の言葉として捉えられることがありますが、実際には少し意味が異なります。前述の通り、物流とは「工場で生産した商品を顧客のもとへ届けるまでの流れ」であり、調達、生産、販売、回収、リサイクルの5つの領域に分けらます。

1,2,3の3つの領域を「動脈物流」、4,5の2つの領域を「静脈物流」に分けられます。

  1. 調達物流とは、生産物流の手前の段階で、商品製造に欠かせない資材や部品をサプライヤーから工場へ移送する際の物流です。
  2. 生産物流とは、社内または工場など自社の範囲内での物流です。
  3. 販売物流とは、工場から消費者に届けるための物流を指します。ECの場合、倉庫から消費者まで届けるケースも販売物流です。
  4. 回収物流とは、製品や容器・包装などの役目を終えた、回収・再資源化する流れの物流です。
  5. リサイクル物流とは、空き缶やペットボトル、古紙や容器包装リサイクル、廃パソコン、インクジェットカートリッジの改修や再資源化がリサイクル物流です。

これに対してサプライチェーンとは、商品を生産するための資材の調達や工場での生産、商品の販売、顧客のもとへ届けるための物流など、「商品を生産してから顧客へ届けるまでの一連の流れ」を表す言葉です。

物流はサプライチェーンの中に含まれる工程の一部ということです。

物流とサプライチェーンを正しく理解する

前述の通り、物流はサプライチェーンの工程の一部に含まれます。そのため、サプライチェーン全体を見直すことで、物流の最適化も実現します。サプライチェーンを見直す際は需要と供給を考慮する必要があります。

資材を適切なタイミングで必要量だけ調達し、最適な生産計画を策定したうえでより多くの顧客の目に留まるように販売計画を練り、物流を効率化してスムーズかつ迅速に顧客の元へ届けるための物流ルートを構築すべきです。

 商品が完成した後のリードタイムを短縮し、かつ物流コストを圧縮するためにも、サプライチェーンの見直しは必要不可欠です。

物流業界の現状と課題

物流業界には、労働力不足や小口配送の増加・複雑化、再配達の増加など、さまざまな課題があります。ここでは、物流業界の現状とそれぞれの課題について詳しく解説します。

労働力の不足

国内全体の少子高齢化や政府主導の働き方改革により、労働力の不足が深刻化している現状があります。2050年には人口が1億人を下回ると予測されており、人口減少に対して改善の様子は見られません。人口減少に伴い生産年齢人口も減少し続け、今後はさらに物流業界での労働力不足が加速すると考えられます。

また、働き方改革によって従業員のライフ・ワーク・バランスが重視されるようになり、長時間労働の是正が求められるようになりました。これによって労働力不足はますます深刻度を増すことになり、改善が急がれています。

小口配送の増加や複雑化

ECサイトなどのインターネットショッピングの利用増加や配送業者の小口配送は増加し続けています。令和3年度(2021年度)の宅配便取扱個数は49億5,323万個を記録し、前年と比較し1億1,676万個増加しました。

小口配送の増加により配送業者の負担は増加し、さらに人手不足の問題も改善されていません。また、宅配サービスの複雑化も労働負担の増加に拍車をかけています。

再配達による非効率化・生産性の低下

配達先の不在によって再配達が常態化することで、配達の非効率化と生産性の低下が起こっています。このような課題を解決するため、一件の配達先に対して一度の配達で業務が完了する仕組みづくりと、配達利用者の意識改革を進める必要があります。

 国土交通省でも、再配達を削減するために時間帯指定の活用や配達業者が提供するメールアプリの活用、コンビニ受取や宅配ロッカー受取、置き配などの活用を利用者に対して呼び掛けています。

2024年問題が物流業界に与える影響

物流業界では、「2024年問題」と呼ばれる問題への懸念が強まっています。

 労働基準法の改正によって2024年4月1日からトラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用され、自動車運転業務に関して年間960時間以内の残業に収めることが法律上で義務付けられます。2024年問題とは、この残業上限規制に伴って物流業界に生じる諸問題です。

 物流業界で働くトラックドライバーは時間外労働が膨らみやすい労働環境にあり、特に深夜にトラックを運転すことが多い長距離ドライバーは、年間960時間以上の時間外労働を行っているケースも少なくありません。業界全体がこのような状況にある中、2024年4月1日以降に時間外労働の上限を設けた場合、ますます業界全体の労働力不足が深刻化すると考えられます。

 また、2024年の段階では年間960時間の上限規制に留まりますが、将来的には自動車運転業務以外の一般業種と同様に720時間の上限規制が適用され、業界が一体となって抜本的な問題解決と業務改革を進める必要があります。

課題を解決させるための物流最適化のポイント

物流におけるさまざまな課題を解決するためには、次の4つのポイントを押さえておくことが重要です。

配送ルートの見直し・最適化

既存の配送ルートを見直し、より最適なルートを再構築することで、配送時間を短縮すると共に従業員の負担も軽減できます。配達する時間帯を考慮した配送ルートを利用することで、渋滞や歩行者の影響を避け、これまで日常的に利用してきたルートよりも短い時間で配送先に到着できるようになります。現状のルートを一覧化し、配達の時間帯に合わせたルートを再構築してみましょう。

 近年では、配送管理システムなど、最適な配送ルートを自動的に策定してくれるシステムもあります。中には道路の混雑状況や天候なども考慮して最適なルートを提案するソリューションもあるため、システム化を検討してみるべきでしょう。

人員配置や労働環境の見直し・最適化

社内の人員配置や労働環境を見直し最適化を進める際に、荷役作業やピッキング作業の効率化やドライバーが働きやすいシフト調整などを実施することで、業務効率の向上やコスト削減が可能となります。

サプライチェーン全体を俯瞰すると、人手が十分に足りている部門に多くの人員が配置されている一方、人手不足で従業員一人ひとりの負担が重くなっている部門があることに気がきます。そのバランスに配慮しながら従業員の配置転換をスムーズに行えれば、従業員の負担軽減と人件費削減を実現できます。

物流システムの導入

物流の効率化を図るためには、物流システムの導入も効果的と言えます。物流システムを導入すると、商品の保管や梱包・配送、流通加工などの各プロセスを統合的に管理でき、業務効率化が実現します。

 システムを取り入れることで、これまで人が行っていた業務の一部を自動化できるため、人手不足の解消にもアプローチが可能です。

購買管理システムの導入

物流システムと並び、購買管理システムの導入も有効な方法のひとつだと考えられます。商品を生産するための資材の調達は、最適なタイミングで必要個数を購入し、また最適なサプライヤー選びも必要なため、工数のかかる業務の一つです。

購買管理システムを導入することで、社内で取引しているサプライヤーと発注情報を一元化管理し、購買業務の効率化を図るだけでなく、支出を可視化することで、無駄な支出を見つけ出しコスト削減を実現します。

物流課題の改善はサプライチェーンから考え直すことが重要

ここまで、物流業界のさまざまな課題について述べてきました。物流が抱える課題を解決するためには、物流プロセスの見直しと効率化だけでなく、サプライチェーンを通じて全体を見直し、再構築することが重要です。自社だけでこの改革を進めることが難しい場合は、外部のコンサルタントと共にサプライチェーンの再設計進めることも効果的だと言えます。

Coupaでは、企業のスピーディーな意思決定を支援するデータ提供し、不確実な未来に備えるためのサプライチェーンデザイン&プランニングソリューションを提供しています。サプライチェーンのデザインと分析を継続的に見直し、再構築を可能にすることで、あらゆる事態にスピーディーに対処し最適な意思決定を可能にします。

Coupaを導入したAmerican Eagle社では、eコマースによる注文の増加を受け、高まる需要に対応できない課題がありました。Coupa Supply Chain App Studioを導入したことで労働計画の作業時間が97%短縮され、スピーディーなサプライチェーンのカスタム構築が可能となり、受注から納品までの業務を改善できました。

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まとめ

労働力不足や小口配送の増加など、物流には解決すべきさまざまな課題があります。2024年問題や労働力不足など、長期的に対策を考えてく必要があり、そのためには物流だけでなくサプライチェーンから見直していくことが重要なポイントだと言えます。

物流の課題のみに取り組んだとしても根本的な解決にはならず、そこから大きな効果は見込みません。

物流業務のみに目を向けるのではなく、資材の調達から顧客のもとへ届けるまでの一連のプロセスに対して対策することで、サプライチェーンと物流の最適化を実現します。