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塩野義製薬がCoupaで挑む業務標準化と統制強化 〜企業価値向上を支える支出管理基盤整備〜

創業147年の歴史を持つ医薬品メーカーである塩野義製薬株式会社(以下:塩野義製薬)。同社は、購買領域における業務標準化と統制強化を目指し、2022年末からCoupaの導入を検討。2024年10月に稼働を開始しています。稼働から約1年での運用実績は、支出額が年間約1,300億円、発注件数は約8万件に到達。発注件数に占める電子請求書の割合は8割以上となりました。

2025年7月29日に開催されたCoupa主催のイベント「Inspire World Tour Tokyo〜持続的成長を実現する支出変革とAI活用の未来〜」では、塩野義製薬 経理財務部 高木陽平氏と、IT&デジタルソリューション部 橋詰知明氏にお話をうかがいました。導入から約1年の実績と課題、取り組みから見えてきたDX推進における現実的な成果と教訓について、業務担当とシステム担当それぞれの視点からご紹介します。

要求への高い適合性と柔軟性、支援パートナーの存在が導入の決め手に

塩野義製薬は創業1878年、現在147年の歴史を持つ医薬品メーカー。塩野義製薬の注力領域は、インフルエンザやCOVID-19の治療薬などの感染症領域と、社会的影響度の高い認知症、睡眠障害などのQOL疾患領域です。

今回のCoupaの導入は、塩野義製薬の中期経営計画における3つの柱の1つ「経営基盤の強化」の一環で実施されました。塩野義製薬がCoupa導入に踏み切った背景には、調達業務における複数の課題があったといいます。

旧調達システムでは業務の制約が多く存在していました。外貨建て取引ができなかったり、メールベースや手作業によるシステム外処理が発生したりする状況。加えて、様々な業務に対してそれぞれ異なるシステムを適用していたため、システムの維持管理コストも課題となっていました。

また直接材領域では、見積や発注プロセスにおける情報管理がメールやExcelでの手作業となっており、ナレッジの共有と活用が進まなかったのです。

こうした背景から、業務の標準化と可視化、統制強化を目的として、新たなソリューションの導入が検討されました。

Coupa選定の決め手は、様々な要求に対する高い適合性と柔軟性、導入を支援するパートナーの存在。塩野義製薬の高木氏は「Coupaに対して深い知見を持つパートナーがおり、その価値を引き出す上で重要な協力関係を築けることも、選定の決め手となった」と振り返ります。

段階的な導入とユーザーとの綿密なコミュニケーションの重要性

Coupaの導入では、既存システムとの連携を重視したアプローチが取られました。まず、間接材領域では、計画管理や予算管理、在庫管理など前工程の業務は従来システムを継続利用。見積や発注、経費処理を商材ごとの外部システムからCoupaに集約する設計にしたといいます。

取引規模の面で重要なサプライヤーに対してはオンボーディング活動を実施し、Coupa上での取引を実現しています。汎用的な消耗品についてはAmazonなどの既存ECサイトとCoupaを連携させ、統一プラットフォーム経由での取引を可能にしました。

一方、直接材領域では既存のERPを活用しつつ、課題となっていたナレッジの共有をCoupaで一元管理しています。プロジェクトは間接材から着手し、その後間接材で採用したCoupaと業務標準のプロセスを直接材に適用。この段階的なアプローチにより、間接材での構築知見を直接材に活用でき、結果として単一プラットフォームで双方の要件の標準化を実現できたといいます。

プロジェクトの企画段階では、「Coupaを実際に利用する方々と密なコミュニケーションを取り、彼らの懸念を『解きほぐす』ことが重要だった」と高木氏。具体的なステップとして、まず現状の業務がどのような形で行われているのか、その背景や理由も含めて丁寧に確認し、深く理解することから始めました。

次に、ユーザーが「困っていること」や「こうなったら良い」といった要望をヒアリング。新システムでの標準化により、業務がどのように変わるのかを理解してもらい、段階的な合意形成を図っています。

さらに、「製品選定の一部にもユーザー自身に意思決定者として関わってもらうことも重要だった」と高木氏。ユーザーにプロジェクトを“自分事”として捉えてもらうことが大切だと指摘します。

業務標準化における柔軟性と統制強化の実現

Coupaの特徴の1つは「商材やシナリオごとの業務要件の違いに対し、動的に変化する仕組みを構築できること」だと高木氏は説明します。

例えば、設備修繕の購買などの都度見積申請では、外部システムからの申請を取り込みつつ調達担当者を設備担当者に割り当てる動的な設定ができます。営業資材の申請では営業資材担当者を割り当て、必要に応じて追加の承認者を設定するなど、業務パターンに応じた柔軟な対応が実現されました。

また統制強化の面では、Coupaの標準機能である発注や受領、請求の照合機能を活用し、相互けん制の仕組みを導入。従来、同一人物が行っていた受領と請求のプロセスに、新たに検収担当者を加えることで分担体制を構築し、不正取引のリスクを低減しています。

さらに塩野義製薬では、契約や発注プロセスを通さない「請求書払い」の取引についても、その経費処理の部分はCoupaを通して行う仕組みを構築しました。

従来のシステムにおいて、請求書払いは「管理外支出」となりがちでした。そこで、Coupaの機能を利用して、あらかじめ事前の経費利用承認を取得。その記録をCoupa内に残し、事前承認記録を請求書に紐付ける形に移行しました。

この仕組みにより、管理レベルとしては十分ではないものの、Coupa内で大部分の取引が可視化され、一定の管理が行き届くようになったといいます。

多くの業務がCoupaに統合されたことで、ユーザーの操作支援も重要な課題となりました。

塩野義製薬では、Coupaのポータルサイトに「ガイドポータル」を設置し、必要な業務の一覧からユーザーが選択して操作を進められる仕組みを構築しています。複雑な項目入力ルールについては、適切な入力がされていない場合にアラートを出す機能を追加するなど、ユーザーの理解と入力支援を強化。

これにより、「稼働から約1年の運用実績は可視化された支出額は年換算で約1,300億円、発注件数は約8万件弱に達し、発注件数に占める電子請求書の発行割合は8割以上となりました」と高木氏。これらの実績は、多くの業務をCoupaに集約できたことを物語っています。

システム構築を経て残された課題と教訓

一方で、課題も明確になりました。国内グループ会社への同時展開により3,000名以上のユーザーに対して一斉リリースした結果、稼働4ヶ月時点の社内アンケートでは、ユーザーの約半数が処理に十分満足できていないという結果が出ました。

これについて高木氏は「Coupaでできるからと要件を詰め込みすぎた結果、ユーザーにとって不必要な情報や処理が混在して見えてしまった」と反省点を説明。今後は要件の追加だけでなく、“引き算”の視点を取り入れ、ユーザーの負荷を軽減するためのシステム設計が必要という教訓を得たといいます。

続いてプロジェクトマネージャーを務めた橋詰氏は、システム担当の視点から構築から運用について説明。まず、「構築段階で2点の反省点があった」といいます。

1つ目は、Coupaの標準機能に合わせられない業務を外部で対応させたことで、本来実現したかった統制強化や業務統一が限定的になってしまった点です。「経営層と連携し、本当にやるべき内容について評価、意思決定するプロセスが重要だった」と強調します。

2つ目は、インターフェース設計の課題です。塩野義製薬では調達品の種類が多数あり、それに応じた多くの周辺システムが存在するため、それぞれのシステムに合わせてインターフェースを構築していました。ところが、Coupaの画面項目数が変更された際、全てのインターフェースを再構築する必要が生じるという問題が発生しました。

橋詰氏は、その解決策として、Coupaに取り込む購買依頼の形式を一定にし、その形式に合わせるための「共通のインターフェース層」を用意するべきだったと説明。これにより、個別のインターフェースへの影響を最小限に抑えることが可能になるといいます。

運用面では役割分担が重要ですが、橋詰氏は「運用体制をプロジェクト企画段階で検討することが重要だった」と指摘。実際に塩野義製薬では、問い合わせ窓口やマスター管理、変更管理、Coupaの障害対応を業務担当者が担い、インターフェースの障害対応はシステム担当者が対応しました。ところが、システム担当者の要素が少なく、最適なリソース配分ができなかったことも反省点になったといいます。

データ利活用によるさらなる改善と将来性への期待

Coupaのさらなる活用について、高木氏はデータの利活用に焦点を当てて説明。Coupaが保持する多様なデータを活用することで、現状の課題を抽出し、改善策を立案し、その効果をモニタリングすることを目指しています。

塩野義製薬では例えば、調達担当者の見積にかかる所要時間を分析し、発注に至るまでの時間を改善する取り組みを行っています。これは「旧システムと比較して新しいCoupaシステムでは発注に時間がかかるようになった」というユーザーの声を受け、商材ごとにボトルネックを特定するために実施しています。

また、改善サイクルの加速化も図っています。Coupaに備わる分析機能「Analytics」を活用し、標準で用意されているダッシュボードだけでなく、独自の分析軸を設定して求めるKPIを可視化。これにより、タイムリーにデータを確認し、改善活動につなげています。

分析例の1つとして、サプライヤーの区分別の電子請求割合を可視化し、電子請求されていない要因を分析することで、是正活動や業務効率化の取り組みにつなげている事例が紹介されました。

橋詰氏は、Coupaに今後2つの大きな期待を寄せています。1つ目は70%の業務自動化です。バイヤー側とサプライヤー側の双方において、業務量全体を70%削減することを目指しています。この目標達成の鍵となるのは、「AIエージェント」と「汎用Supplier Portal」だといいます。

AIエージェントについては、バイヤーとサプライヤーの双方にAIエージェントが付き、業務の代行や不正を検知することを期待しています。汎用Supplier Portalについては、サプライヤーがCoupa以外の様々なシステムを利用している現状を踏まえ、Coupaを利用していなくても汎用的にアクセス可能な仕組みの構築が重要であると指摘します。

2つ目は「真のグローバル化」です。橋詰氏は、Coupaが「単一のグローバルプラットフォーム」として機能することを期待しています。これにより、世界各地に会社を持つグローバルなバイヤー側はCoupaを1つのプラットフォームとして活用でき、サプライヤー側も相手がどの国の企業であるかを意識することなく、バイヤーが最適な方法で調達できるような関係性が実現できるといいます。

これにより、「単に日本企業が海外のサプライヤーからモノを買うという現状のグローバル化に留まらない、バイヤーとサプライヤーの双方が真にグローバル化される世界が実現できる」と橋詰氏は説明し、セッションを締めくくりました。

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