長期的なコスト上昇が見込まれる中、調達改革が急務に
昨今、パンデミックの発生や米中貿易戦争、ウクライナ侵攻、円安など、調達を取り巻く環境は日々変化する中、調達部門への期待値も高まっています。安定的な調達やコスト削減はもちろんのこと、サステナビリティへの対応、サプライチェーンを含めたコンプライアンス、デジタル化、データ利活用、優秀な人材の獲得など、多岐にわたる課題に取り組まなければなりません。
そうした中、調達コスト上昇が経営に与えるインパクトは大きくなっています。日本銀行のデータによると、コロナ禍による売上減少から回復しつつあるものの、コスト上昇により収益が圧迫され、経常利益は下がっています。
加えて、2022年以降物価高による企業倒産が急増し、海外での金利上昇も加速しているため、景気悪化へ転向する可能性も否めません。三宅氏は「さらに厳しい状況になる可能性もあり、いまの段階から改革に取り組むことが重要」と話します。
一方、近年、社会的要請が高まっているのがサステナビリティへの対応です。特に欧州では、デューデリジェンスの実施や報告を義務化する国が相次いでいます。加えて企業では、サーキュラーエコノミーの取り組みやグリーンボンドの活用などが積極的に進められています。こうした動きは、グローバル企業やそのサプライヤーへと波及し、今後多くの日本企業でも対応が必須となるでしょう。
サプライヤーを巻き込んだリスクマネジメントやデジタル化が重要
調達リスクへの対応強化の動きも欠かせません。不正が起こりやすい調達業務において、サプライチェーンのグローバル化が進むにつれリスクマネジメントの難易度は年々高まっています。そのため調達リスクへの対応強化の動きも欠かせません。不正が起こりやすい調達業務において、サプライチェーンのグローバル化が進むにつれリスクマネジメントの難易度は年々高まっています。そのため調達リスクマネジメントにはサプライヤーを巻き込んで積極的に取り組むことが重要です。
サプライヤーとの連携はデジタル化においても必須です。サプライヤーとの請求書のやりとりで、紙やFAXの請求書が残ったり、デジタル化してもフォーマットが統一できず、手作業でのオペレーションが生じるケースも多く見受けられます。デジタル化する際もサプライヤーを巻き込んだ効率的な運用への移行が重要になっています。
調達をめぐる3つの限界を打破するデジタル化
「調達分野では高まる期待に対して3つの限界がある」と三宅氏は指摘します。
1つ目は「業務プロセスの限界」です。管理運用ではマニュアルやExcelの手作業業務などが多く残されています。デジタル化ではサプライヤーを巻き込んで取り組むことが重要です。
2つ目は「働き方の限界」です。多くの企業では、問い合わせ対応や資料作成など、重要性の低い業務に時間が取られる一方、サプライヤー改革や交渉、VA・VEといった重要性の高いコア業務にリソースが割けないのが現状です。デジタル化による業務効率化で、コア業務に割くリソースを増やすことが求められます。
3つ目は「管理範囲の限界」です。調達部門の関与にあたり、品目、組織、データの3つの限界があります。
「品目」を直接材と間接材に区分したときに、支出の多い直接材の原材料にリソースを割きがちですが、間接材の支出も看過できないため、間接材品目への関与も重要です。
「組織」では、自社だけでなくグループ会社の調達まで関与する必要があります。難易度が高くなる海外を含めたグループ企業全体として、関与する領域を増やすことが欠かせません。
「データ」では、購買の具体的な品目、数量、価格、調達先といったデータがないために、関与できない事案が起こりがちです。1つのプラットフォームで戦略を実現するためにも、グローバルで統一のフォーマットを展開することが求められます。
調達改革で経営課題に直結する業務へシフト
「調達改革にあたって、特に取り組むべき5つの課題がある」と内藤氏は話します。
1つ目の「デジタル化」は、コア業務にリソースを割くためにも欠かせない取り組みですが、内藤氏は「デジタル化を通じて、ノンコア業務の削減とコア業務の質向上の2つを実現すべき」と指摘します。まずは調達機能組織において必要なデジタル化を考えた上で、調達プロセスにおいてEnd to Endで最適なデジタル化を考えていくことが重要です。
2つ目の「コスト」では、カテゴリ戦略が有効です。支出データから同じ特性を持つ物品を集約し、カテゴリに分類。カテゴリごとにコスト削減戦略を検討し、それに合わせた機能をシステムで実現していくことで、課題を解消できます。
3つ目は、昨今重要度が増す「サステナビリティ」です。持続可能な調達の実現のための国際規格(ISO24000)が2017年に設定されています。自社の課題を踏まえた上で、ガイドラインを考慮しながら、どのようなデータを収集すべきかを考え、構築していくことが必要です。
4つ目の「コンプライアンス」も近年重要性が増している領域です。「調達は不正の温床になりやすいため、検知できるデータの収集や利活用の方法を導入することが重要」と内藤氏は指摘します。「購買先が健全であるか、購買プロセスで同一人物が発注と検収を行っていないか、分割伝票の使用や期末の大量発注など怪しい購入がないか、などの事案はデータの利活用で管理できます。
5つ目の「働き方」はデータ活用が難しいと思われがちな領域です。しかし、2018年に国際規格(ISO30414)が設定され、定量的な評価が可能になりました。調達分野での業務量が増えているため、適切な人材と求められるスキルを可視化し、新規採用や配置転換、採用戦略を考えるなど、KPIに働き方の要素を含めることが欠かせません。
世界情勢の急激な変化により、調達部門はその重要性が増し、期待値も高まっています。こうした動きは今後も続く可能性が高く、企業にとって調達改革はまさしく喫緊の課題。サプライチェーンを含んだ一体的な調達改革を通じて組織が強靭化することが、社会の変化に対応する一つの鍵となりそうです。