非財務情報の情報開示が世界的潮流に

前半では、徳永氏がESG経営の世界的潮流について解説します。

グローバルでは国際会計基準(IFRS)財団が組織したISSBや、米国証券取引委員会(SEC)、EUが施行した企業サステナビリティ報告指令(CSRD)など、様々な国際機関が、それぞれ気候変動をはじめとした項目を設定。非財務情報の国際標準化、情報開示義務化に向けて取り組んでいます。

サステナブル経営に資する、調達領域でのTPRM高度化アプローチとは

注目すべきは、これらで求められる情報が自社情報のみならず、サプライヤーを含めたサードパーティーの情報開示を求めている点にあります。

その代表例の1つがGHG排出量です。企業自身が使った燃料、電力の使用に伴うGHG排出量だけでなく、それに付随する広い範囲(スコープ3)についても開示を求めています。

サステナブル経営に資する、調達領域でのTPRM高度化アプローチとは

もう1つの代表例として挙げられるのが人権対応です。企業は自社のバリューチェーンを見回して、ステークホルダーを特定し、起こりうる人権の負のリスクをアセスメントすることを求めています。とりわけ上流のサプライヤーにおいてリスクが高いため、企業はリスクを把握し、問題がある場合には対策を講じる必要があります。

このように、非財務情報開示の義務化を巡って、サードパーティーまでを含めた情報収集、管理が求められており、その重要性が高まっています。

サステナブル経営に資する、調達領域でのTPRM高度化アプローチとは

重要性が増すSCMオペレーションの高度化

後半では、TPRMの高度化について伊藤氏が解説します。昨今、社会環境の変化に伴い、従来の品質やコスト、納期といったQCDに関する事項に加え、リスク管理やサステナビリティといった事項も重視されつつあります。

グローバル企業の調達部門責任者へのアンケートでは、好業績を上げる企業の多くは、サプライヤー選定のコア要素としてリスク管理を取り入れていることが明らかになっています。加えてリスク管理を、従来のミッションと同程度の優先度で重視していることが分かりました。

サステナブル経営に資する、調達領域でのTPRM高度化アプローチとは

Coupaを活用したTPRM強化

では具体的に、TPRM強化には何が求められるのでしょうか。伊藤氏は「TPRMには3つの要件があり、それらはCoupaの活用で強化できる」と話します。

1つ目は「十分な情報をタイムリーに取得するためのスキーム」です。Coupaではサプライヤーとの情報連携を可能にするコミュニケーション基盤を備えており、外部のリソースを取り込むことが可能なため、情報の網羅性も兼ね備えています。

2つ目は「リスク検知および分析の効率化・自動化」です。Coupaには、詳細なリスク管理が可能となる機能のほか、リスクを算定するロジックも兼ね備えています。加えて継続的なモニタリングや再評価も可能です。

3つ目は「取得情報や分析基準・結果に関する統一的な管理基盤」です。Coupaでは1つのプラットフォームの中でリスク管理全般のライフサイクルを管理できるので、包括的なリスク管理や、リスク管理のレジリエンス・マネジメントにも取り組めます。

サステナブル経営に資する、調達領域でのTPRM高度化アプローチとは

自社に必要なリスク管理戦略の策定

伊藤氏は、TPRM改革には3つのアプローチがあると話します。

1つ目は「自社に必要なリスク管理戦略の策定」です。ここでは3つのリスクに分けて、管理項目を定義します。

「固有リスク」は、自社内でアンケートを実施し、対象のサプライヤーとのステータスや、自社の状況を踏まえて、サプライヤーへの調査項目を策定します。一方「ビジネスリスク」や「ESGリスク」は、サプライヤーに対してアンケートを実施し収集。ビジネスリスクでは財務健全性や契約条項を確認し、ESGリスクでは環境や人権問題も含めて管理するための戦略を策定します。

サステナブル経営に資する、調達領域でのTPRM高度化アプローチとは

横断的なヒト連携と情報連携

TPRM改革へのアプローチの2つ目は「横断的なヒト連携と情報連携」です。まずは経営層との方針合意が求められます。リスク管理方針に関する経営層の意向の反映と内容の承認のほか、社内展開でのサポートを取り付けるなど、事前準備が欠かせません。

加えて、TPRM自体は利益を生む活動ではないため、事業部門に対する啓蒙活動により、取り組みに対する理解を醸成します。さらにサステナブル、リスク管理、監査部門とも連携し、各部門の持つ専門的な情報を踏まえて、独りよがりにならないように改革を進めることが求められます。

一方、情報の連携ではリスク管理に関わる情報が、各システムに点在するため、こうしたシステムとの連携が必要です。その際システムの機能配置を考えるとともに、Coupaに取り込むデータ項目を洗い出し、効果のあるスキームを確立することが求められます。

サステナブル経営に資する、調達領域でのTPRM高度化アプローチとは

実効性のあるオペレーションモデルの確立

TPRM改革へのアプローチの3つ目は「実効性のあるオペレーションモデルの確立」です。リスク管理を効率的に運用するために、組織や人的リソース、プロセス、ルール、KPIといった要素を整備し、実効性のあるオペレーションの構築が求められます。

「組織」では、役割分担だけでなく、権限の付与が求められます。何をやるにしても、他部門の統制が効かないと組織ごと倒れかねません。経営層とのアライアンスを絡めて実行していくことが重要です。

オペレーションには「ヒト」が取り組むため、血の通った改革を進めるために、意識改革やチェンジマネジメントに継続的に取り組むことが求められます。

また、「ルール・プロセス」の構築にはサプライヤーを巻き込んだ効果的な構築が重要で、リスク監視や各種マニュアル・規定の整備が求められます。

「KPI」は、全社戦略や方針に沿った整合性のある内容にするほか、該当する個人や組織の活動と評価を紐づけることも欠かせません。

サステナブル経営に資する、調達領域でのTPRM高度化アプローチとは

TPRMの高度化は、近年の国際的なルール変更による影響や、社会やマーケットからのニーズの高まりにより、長期的に企業価値を維持向上させるためにも、経営戦略上で欠かせない領域と言えます。実のあるTPRM改革を実現するためには、目的に沿った活動を定義し、社内外のステークホルダーや幅広い情報を巻き込んだ連携体制やオペレーションモデルを構築することが重要です。