エキナカ配送を得意としながら、次世代配送サービスも積極的に展開
同社は、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の物流小会社。従業員約1,200名とトラック運転手約375名を抱え、年間売上は約127億円です。
営業収入の約7割はグループ内で、残り3割がグループ外。主なサービスはエキナカコンビニ配送で、現在はJR東日本のエキナカにある約800店舗へ商品を配送しています。
また、駅ビルの館内配送や、レールや車両部品などの鉄道事業用品の配送も行っており、現在は毎日16台のトラックでJR東日本の約240駅に配送。エキナカへの商品配送に強いことが同社の特徴になっています。
さらに、2021年からは新幹線や在来線特急などを活用した次世代配送サービス「はこビュン」も展開。輸送手段が多様化する中、Coupaを使って配送の最適化を図り、物流の効率化に取り組んでいます。
度重なる業務再編成で、物流ネットワークの全体最適化に課題
ジェイアール東日本物流が物流の最適化を図ることに決めた背景には、コロナ禍によるビジネス環境の変化と迫りくる「物流2024年問題」も関係しています。
「コロナの影響で飲食や観光需要が減ったことでグループのサプライチェーンも影響を受け、物流会社の収益力が低下しました。2024年にはトラックドライバーなどの年間時間外労働時間が制約される中、一度立ち止まって物流を見直す必要性を感じ、物流の最適化に挑戦することにしました」と石戸谷氏。
同社はグループ内の会社統合や業務再編成が多かったため、「これまで業務ごとに個別最適化されたシステムを利用しており、物流システムが連携していない」という課題を抱えていました。
そこで、物流ネットワークの全体最適化に向けて、CoupaのSupply Chain Design & Planningソリューションを導入。拠点の効率的な配置やシステム連携、設備・業務フローの標準化により、外部環境の激しい変化にも柔軟に対応できる仕組みの構築に取り組んでいます。
エキナカコンビニ配送の「物流コスト削減」に向けたCoupa活用法
ジェイアール東日本物流では、エキナカコンビニ配送における「物流コストの削減」をCoupa活用の最初の取り組みテーマに設定しました。特に活用したのが、拠点の配置や配送コースなどをシミュレーションできる機能。実際に、ドライとチルドの出荷拠点を統合した場合や、1日あたりの便数を減らした場合をシミュレーションしました。
Coupaには、直線距離ベースで算出される「Network Optimization(NO)」と走行距離ベースで算出される「Transportation Optimization(TO)」の2種類の機能が存在します。同社はNOで出荷元と配送先を探索して全26パターンのシナリオを作成。その後、5シナリオまで絞った上で、TOで車両の積載量や拘束時間を考慮した最適なルートを検証しました。
シナリオを作る際に優先した条件は「コストの最小化」。計26パターンをシミュレーションした結果、統合拠点である在庫型の拠点を作り、通過型の拠点を3つ設けて配送することが一番効率的だという結論が導き出されました。現在は拠点の整備を進めるとともに、多様な温度帯に対応するSCM統合拠点の新設に向け、取り組みを進めています。
「Coupaでは『コストの最小化』のほか、『環境負荷の最小化』など様々な条件を選択してシミュレーションできます。転送・配送から荷役や賃料まで多面的な分析を行い、様々なプランを定量的に比較して検討できることが最大のメリットだと思います」と石戸谷氏は話します。
物流ネットワークのオープン化で、グループ外収入の拡大へ
「今後はCoupaを活用して物流のオープン化に取り組み、グループ外収入の拡大を目指していく」と石戸谷氏は述べます。
物流をオープン化するべく、同社は以下の2点に取り組む予定だと言います。
1 多様な輸送手段による駅配送ネットワークのエリア拡大
エキナカ配送を中心としたネットワークの拡充とシステムの強化を進め、グループ外の荷主にも駅配送のリソースを提供していく予定。「実現に向けて鉄道事業用品の配送運行を見直し、駅への配送サービスの展開や、列車荷物輸送「はこビュン」を駅のカウンターと組み合わせた集荷サービスの展開などを検討しています」と石戸谷氏。実現には複雑な配送が想定されるため、今後はCoupaを活用し、最適な配送ルートを導き出していく予定です。
2 グループ外へのコールドチェーン事業の拡大
同社のネットワークだけでなく、パートナー会社のネットワークも組み合わせたコールドチェーンを構築し、新たなサービスを構築していく予定。「実現には時間がかかる見通しですが、将来的にグループ外へ売り出していくことを検討しています」。
このように、Coupaを活用することで、物流ネットワークの最適化によって既存領域を強化し、物流ネットワークのオープン化に向けてスタートを切ったジェイアール東日本物流。事業拡大に向けた物流ネットワークの最適化を検討する多くの企業にとって参考になる事例といえそうです。