重要性が増すサステナビリティへの対応

エコバディス社は、企業のサプライチェーンの評価機関として、特にサステナビリティ分野での格付けに取り組んでいます。評価対象国は世界175カ国。評価を依頼されるバイヤー企業は世界1,000社、評価済みのサプライヤー企業は10万社、国内でも6,000社にも及びます。ここで評価された結果は、Coupaを通じて企業に提供されています。

サステナブルな企業経営で欠かせないのが、ESGへの対応です。ESGへの関心度は近年強まっています。

Coupaが行った調査によると、消費者の64%はより地球環境に良い製品を選んでいるほか、特にミレニアル世代の40%がESGの観点から入社企業を選ぶと回答しています。また、企業の経営層の80%は、投資家に対してESGに関する取り組みの説明責任があると認識。サステナビリティは企業の成長戦略上、重要な取り組みだと位置づけていることもうかがえます。

いま求められるサステナブルなサプライチェーン構築とは

最終ブランドである調達企業の責任が問われる

なぜ持続可能な調達が重要なのでしょうか。国連グローバル・コンパクトとEYが2017年に行った調査によると、サステナビリティに関する課題の約70%は、サプライチェーン内で起きており、サプライチェーンへのサステナビリティ管理が重要であることがうかがえます。

いま求められるサステナブルなサプライチェーン構築とは

国際的コンセンサスのなかで、ブランドロゴの付いた商品の調達先で問題が起こったとき、最終ブランド企業である調達企業がその責任を問われる、と認識されているのです。

非財務情報の重要性が増すなかESG対応は合理的

ESGへの対応が遅れることで、大きく3つのリスクがあると岩月氏は話します。

1つ目は「調達リスク」です。とりわけ最近では、気候変動やパンデミック、戦争といった社会環境の変化により、安く仕入れて早く配送するということが困難になっています。そのためQCDを管理することが合理的になっているのです。

2つ目は「規制リスク」です。ESGへの対応を求める規制が世界的に広まっています。例えば人権問題では、2023年1月にドイツでサプライチェーン・デューデリジェンスを義務化する法律が施行されました。こうした動きは今後より強化されることが予想されるため、グローバルビジネスでは考慮しなければならないといえます。

そして3つ目が「企業価値の毀損リスク」です。近年、資金力のあるNGOが独自基準でネガティブスクリーニングを実施し、その結果を拡散することによるレピュテーションリスクの影響も強まっています。

いま求められるサステナブルなサプライチェーン構築とは

若月氏は「株主や機関投資家の視点から見ると、企業の非財務情報はより重要性が増しており、トップマネジメントに大きく影響を与える問題となっています。そのためESGに対応することが結果として合理的です」と指摘します。

実行・計測するための環境整備が課題に

企業にとっては、リスクや社会的要請があるものの、ESGへの取り組みはコストがかかり、取り組みを実行し・計測するための環境が整備されていないことが課題です。

例えば、ESGへの取り組みは企業の財務負担になります。また、サプライヤー管理のための仕組みやシステムがなく、非効率的で負担感が増しています。さらに、企業全体として主体的に取り組むための手法や社内標準となるプロセスが未確立であることも、ESGへの取り組みが進まない原因として挙げられます。

いま求められるサステナブルなサプライチェーン構築とは

今後はサプライヤーへの評価も求められる

国際的なコンセンサスでは、バイヤー企業に責任ある調達が求められています。これまでサプライヤーの行動規範やCSR調達基準を設定し、それらの遵守を求めるまでがバイヤー企業の責任の範囲でした。

ところが、2023年1月にドイツではサプライチェーン・デューデリジェンス法が施行され、人権や環境関連のリスクを特定し、防止するためのマネジメントシステムの構築や、その定期的な報告などが義務化されました。

いま求められるサステナブルなサプライチェーン構築とは

そのため「サプライヤーへのアセスメントはせざるを得ない状況で、サプライヤーが遵守できていないときには、バイヤー側がサプライヤーへの改善を促す必要があります」と若月氏は指摘します。

とりわけこうした対応が必要な「優先サプライヤー」は取引先全体の20%程度。「取引金額が多い、もしくは戦略的に重要であるサプライヤーに対して取り組む必要があります」と若月氏は話します。

人権労働問題への対応と中小企業のトラッキングが課題

日本企業におけるESGへの取り組みとして、環境への対応はヨーロッパについで高い水準にあるものの、人権労働問題への対応は低い傾向にあります。「ジェンダーダイバーシティはとりわけ低い水準にあるため、他要素の対応も難しいのではないかという疑念を持たれることで、企業の価値毀損につながっています」と若月氏は指摘します。

また、世界のサプライチェーンの70%を占める中小企業のうち、温室効果ガス排出量を報告している企業は20%程度にとどまっていることが、エコバディス社の調査で明らかになりました。

「中小企業では排出量の報告義務もないため、トラッキングするシステムや知見がないのは当然です。ただし今後は、中小企業のトラッキングを底上げしていくことが重要です」と若月氏は話します。

いま求められるサステナブルなサプライチェーン構築とは

サステナビリティ対応が社会的要請として広まるなか、サプライチェーンへの対応はより重要度が増しています。効果的にサプライチェーンのサステナビリティ対応を進めるためにも、外部機関の支援を受けながら取り組んでいくことが、バイヤー企業には求められます。