デロイト トーマツ グループでは気候分析シナリオ分析やサーキュラーエコノミー型ビジネスの構想策定、具体的なモデル構築やオペレーション実施・定着化など、「Climate&Sustainability」関連の包括的なサービスを提供。そのうちの一つが、サステナブルなサプライチェーンネットワークデザインです。
政府、取引先、投資家、消費者が、企業へカーボンニュートラルの取り組み強化を要請
まず、寺西氏は近年のカーボンニュートラルの動向について次のように言及。「企業は政府、取引先企業、市場・投資家、消費者など様々なステークホルダーから、カーボンニュートラルの取り組み強化を要請されるようになっています。」
政府は世界で共有するカーボンニュートラルに向けたロードマップの下、企業へ脱炭素に向けた取り組みを要請。炭素税による課税や税制優遇措置、その他、EUでは鉄鋼やセメントなどの輸入に関して国境炭素税の導入も検討しています。
企業においては、カーボンニュートラルを目指す方針を公表し、脱炭素を戦略的に活用する動きが加速化。取引先にもGHG(温室効果ガス)排出量情報の提供や削減を要求し、その要請に応えられなければサプライヤーから外されるという事態も懸念されます。
市場・投資家については、日本ではコーポレートガバナンスコードが改訂。上場企業にサステナビリティに対する取り組みの情報開示を求め、脱炭素に前向きな企業に投資し、後ろ向きな企業を批判する動きも。また、消費者においても、カーボンニュートラルやエシカル消費への意識が高まっています。
「各種ステークホルダーの要請に応じ、カーボンニュートラルへの取り組みを強化しなければ、企業としての持続可能性、サステナビリティもが危うい。そういう状況に立たされています。」(寺西氏。以下同)
企業間物流は日本全体のCO2排出量の7.7%。削減には外部との連携が必要不可欠
さらに以下の3つのScopeで定義されるように、企業は自社の排出だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出量を合計したGHG排出量の削減が求められるようになっています。
- Scope1:自社工場での生産などで使用した燃料の使用で排出されるGHG
- Scope2:他社から供給された電気の使用に伴って間接的に排出されるCO2
- Scope3:Scope1、2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
なかでも注目すべきはScope3です。
「サプライヤーの製造プロセスや製品輸送時に排出されるGHGのように、自社で直接コントロールできないため排出量の把握や削減が難しい領域です。」
GHG削減の国際的なイニシアティブの1つであるSBT(Science Based Targets)の認定を取得している日本企業でも、Scope3について対象カテゴリや削減目標などを明確にしているのは少数派。とくに上流・下流の輸送・配送に関する目標を掲げている企業はわずかだといいます。
しかし、日本におけるCO2の部門別排出量を見ると運輸部門が17.7%で、その内、企業間物流が約7.7%を占めています。冒頭のグローバルな動きを鑑みても、サプライヤーや物流会社など外部企業と連携しながら輸送・配送に関するGHG削減を検討することが欠かせません。
どこで・どれだけ・何を調達・生産・保管し、どのように顧客に届けるか
サプライチェーン全体のGHG排出量を減らすためには何から着手すべきか。ここで寺西氏が挙げるのがセッションの本題、「サプライチェーンネットワークデザイン」です。
一言でいえば「どこで・どれだけ・何を調達・生産・保管し、どのように顧客に届けるかを設計すること」。下図に示す「調達設計」「配置・配分設計」「輸送設計」「キャパシティ設計」の4要素から構成されます。
サプライチェーンネットワークデザインによってCO2排出量を削減する方法には、大きく「輸送トンキロの削減」と「低排出電力・燃料の利用」という2つの方向性があるといいます。
「輸送トンキロの削減」については、輸送サイクルやロットの見直し、共同配送の導入など。積載率の上昇や1回で運ぶロットサイズを大きくすることで、輸送トンキロを削減するわけです。
「低排出電力・燃料の利用」の代表的な方法は、より環境負荷の低いEV、FCVなどを含む輸送手段に転換するモーダルシフト。より低排出な生産国やサプライヤーの見直しも有効な選択肢です。
「もう少し包括的な取り組みとしては、『地産・地消モデル』への転換、物流拠点の統廃合・新設なども考えられます」。さまざまな要素を踏まえ、経済的合理性と排出量削減のバランスを取ったサプライチェーンネットワークのデザインが求められているのです。
CoupaのSupply Chain Design & Planning を活用した支援
その観点から、CO2削減のみを目的としてサプライチェーンネットワークを検討することは現実的ではありません。コスト削減やサービスレベルの維持なども含めて、複合的・合理的に検討する必要があるものの、合理的な数字の算出1つとっても、その複雑さからハードルは高いといいます。
「そうした課題をお持ちの企業様に対し、弊社ではCoupaの『Supply Chain Design & Planning』というネットワークのシミュレーションツールを使った支援を行っています。」
基本的なプロセスとしては、上図のように3段階に分かれます。まずは「現状再現」。既存データを使い、サプライチェーンネットワークの現状を可視化します。
次に「現状最適化」。現在のネットワークの各種制約条件を維持した状態で最適化できるようシミュレーションを実施します。
最後に「仮説分析」。新たな拠点の追加や統廃合などを定量的にシミュレーションします。
「これらのプロセスを踏むことで、CO2排出量だけでなく、コストやサービスレベル、在庫量などを含めた形で、最適なサプライチェーンネットワークを総合的に判断し、デザインが可能となります。」
サプライチェーンにおけるカーボンニュートラルへの取り組みが企業競争力を大きく左右する時代にあって、いかにその最適化をはかるか。同セッションを参考に、改めて考え直してみたいものです。