サプライチェーンデザインの重要性
最初に小川は、サプライチェーンデザインが企業の支出に大きな影響を与えていると指摘。企業支出の70%がサプライチェーンから発生しており、その支出のうち80%は、サプライチェーンのデザイン段階で固定されてしまうためです。
デザイン段階で決まる80%の支出の内訳は、流通ネットワークのあり方や在庫の場所、機器の選択、プロダクトデザイン、内製あるいは外注の選択などで、あとから変更するのは容易ではありません。そのため、最初にデザインをしっかり決めることが、サプライチェーン全体の支出管理の最適化につながります。この戦略的なデザインを担うのがCoupaのサプライチェーンデザインです。
このようなサプライチェーンのあるべき姿の模索において、従来はサービス、コスト、在庫のバランスが重要視されていました。ところが昨今は、そこへESGやサプライチェーンへのリスクといった複雑な要素が加わり、これらを全て考慮した上で最適なサプライチェーンをデザインしなければなりません。
サプライチェーンデザインの実現は、利益や機会損失、CO2排出量などの指標について、現状を可視化することからスタート。その上で、最適化する目的を定めて実現するネットワークを構築していきます。
さらに、サプライチェーンデザインは初期に一度設定して終わりではなく、サプライチェーンを巡る様々な要素の変化に対応するため、多様なパターンを想定して継続的に行うことが必要です。
サプライチェーンのデジタルツインが意思決定の判断材料に
複雑化するサプライチェーンのコンセプトを実現するCoupaのソリューションとして、小川はまず「Supply Chain Modeler」を紹介。
18年以上にわたり蓄積されたCoupaのノウハウと高度なアルゴリズムにより、実際のサプライチェーンのモデルをデジタル環境に再現し、いわゆるデジタルツインを構築します。現実のサプライチェーンでは不可能な実証実験も、デジタル上で実行して仮想的な結果が得られるため、サプライチェーン戦略の最終的な意思決定の判断材料となります。
Supply Chain ModelerのAIによるシナリオ分析は、ネットワークデザインや生産最適化など非常に幅広い領域でユースケースへの適用が可能です。
さらに小川は、最適化の例として3つの機能を紹介。
①ネットワークの最適化:収益性、持続性、成長性のバランスを考慮したネットワークの設計
②在庫水準の最適化:安全在庫の量と配置を最適化し、望ましいサービスレベルとコストを実現
③モード及びルートの最低化:必要なサービスを最小のコストで提供するための最適なルートの決定
「これら3つの機能が1つのプラットフォームに集約されているのが『Coupa Supply Chain Design & Plannning』の特徴」と小川は強調します。
Supply Chain Prescriptionsでリスクを分散
続いて小川は、「Supply Chain Prescriptions」を紹介しました。このツールはまずサプライチェーン全体を対象にネットワークデザインを行い、その上でAIが複数の有効なシナリオを自動提案します。提案されるシナリオはコスト削減余地の大きいものから順に提示されるため、利用者はその中から最適な選択肢を容易に見極めることができます。
Supply Chain Prescriptionsのもう一つの強みは、リスクの軽減です。サプライチェーン上で特定の拠点が停止すると全体が滞る「単一障害点」を特定し、その影響を最小化する仕組みを提供します。この機能により、ネットワーク全体をより強靭で、混乱に強い構造へと導くことが可能になります。
例えばサプライチェーンのフローで、全ての物が特定の工場を経由している場合、その工場にトラブルが生じると物が全く運べなくなってしまいます。Supply Chain Prescriptionsは、そのような構造を分散させて代替ルートで供給するネットワーク構築の機能を持ち、リスク分散にかかるコストもAIで自動計算します。
「Supply Chain Prescriptionsについては、今後さらに生産コストやフローの改善提案、サービス提供時間の改善提案、生成AIを用いた対話形式でのシナリオ比較・モデル作成といった機能の開発が計画されている」と小川は説明します。
シナリオ分析でコスト最適化
最後に、架空の企業(中国にサプライヤーがあり、日本全国に在庫拠点、販売ネットワークを持つ企業)を想定したネットワーク再構築のデモンストレーションが行われました。
①現状再現
仕入・在庫・輸配送能力やビジネス上の制約条件等のデータをインプットし、現在のネットワークを再現するプロセス。マスターデータやトランザクションなど必要なデータを入力してデジタルツインを構築します。
②現状最適化
現在の仕入・在庫・輸配送能力などの各種制約条件を維持した状態で、コストが最小となる仕入、配送、在庫を導き出します。デモンストレーションでは、顧客に近い倉庫から配送するよう平準化した結果、中国地方の倉庫の物量が減少しました。
③シナリオ分析
仕入・在庫・輸配送能力の変更等をサプライチェーンのモデルに反映して分析します。デモンストレーションでは、中国地方の倉庫を大阪と統合するシナリオを実行し、現状再現及び現状最適化と比較したところ、もっとも総コストが下がるという結果が得られました。
④AI活用シナリオ
さらに、Supply Chain PrescriptionsとAIを使ったシナリオの提案が可能です。現状最適化したモデルをもとにして、AIがさらにコスト削減の機会を提案します。AIが複数のコスト削減案を提示するので、それら全部ないし一部をサプライチェーンモデルに適用し、シナリオ分析することが可能です。
デモンストレーションを終え、小川は「柔軟で競争力の高い意思決定をするために、継続的なサプライチェーンデザインが必要」とまとめて、セッションを締めくくりました。