すべての企業がテクノロジーカンパニーへと変容

「2020年.世界はリセットされた」

冒頭、そんなスライドを掲げた澤氏。その根源はCOVID19。世界で時期を同じくしてビジネスや生活のあり方の根本が変わったという点で、「インターネットが登場した1995年以来の衝撃に匹敵するといっていいでしょう」と語ります。

COVID19は世の中に移動の制約を課したものの、ここで力を発揮したのがインターネットを始めとするテクノロジーです。「リモートワークが浸透し、オンラインショッピングも定着。多くの人がECサイトにクレジット番号をためらいなく入力するなど、人類はデータを信じる生き物となりました。」

これまでもデータの信用性の向上とともに、データを基にした緻密なシミュレーションから新たなビジネスやイノベーションが生み出されてきました。近年ではクラウドの登場によるサブスクリプションのモデルが普及し、“デジタルツイン”といった概念も誕生。ITのサービス化が加速的に進行、拡張することで、テクノロジーに無縁でいられる産業、人間はもはや存在しない時代に突入しているといいます。

 

「思考の抽象化」こそが目指す企業価値の創出につながる

デジタルが人類のインフラと化した今、改めてDXとは何なのか。

誤解されがちですが、業務のデジタル化、つまりデジタライゼーションはDXの必須条件ではありますが、イコールDXではありません。

 

 

「DXとは業務の効率化を指すものでなく、業務そのものをデジタル化していくこと。既存業務の単純な電子化よりも大きなチャレンジが必要となります。」

その取り組みのベースとして、組織全体で目指す方向性の合意とサービス化されたIT、つまりクラウドの効果的な活用を挙げます。

「すべてのビジネスは社会貢献のためにあるという合意が、ビジネスを前進させるパワーになります」と澤氏。そして経営者だけでなく、マネジャー、現場が最も解像度高く見えている一般社員含め、組織一丸となって目の前の仕事の本質を考え抜き、いかに社会に貢献できる価値を創造していくかをつきつめていく。「つまり“思考の抽象化”こそがDX推進にもつながる新たなアイデアの源泉となります。」

その観点からクラウドプラットフォームとはビジネスを推進していく上でのプラットフォームの抽象化と指摘。「任せられる作業・業務は、Coupaのようなクラウドサービスのプレイヤーに任せ、本業のビジネス創出に集中することが肝要です。」

 

「私、ITオンチなんです」=「私、仕事ができません」

では、クラウド化を軸にどうDXを進めていくか。必要となるいくつかのマインドセットについて澤氏は解説していきます。

その1つが、クラウドという新しい世界にシフトするならば、「古いモノは潔く捨てること。」

「家の引っ越しをする際にはまず不要品を捨てますよね。ビジネスも同様で新しい世界に行くならば、今まで使っていた古いサービスを捨て、最適・最新のサービスに乗り換えるのが正解です。」

捨てるものの判断基準は時間のパラメーターを適用。システムの利用時間はどれぐらいか、データアクセスの頻度はどれぐらいか、最後にアクセスしたのはいつなのか。時間という軸での棚卸しを勧めます。

「『とりあえず残しておこう』など『とりあえず』という言葉がよぎったら『やめる』『捨てる』が正しい判断と考えましょう。」

2つ目が「従来の仕事のルール、やり方を疑う」こと。

例えば仕事の基本とされてきた「報告、連絡、相談。」これらも時間軸で切り、過去の「報告」、現在の「連絡」については、従来の電話連絡や紙の報告書などからデジタルによる自動化を推進。新しいビジネスを生み出すための未来の「相談」に時間をかけることが重要で、相談についても「飲みニケーション」といった旧来のやり方をアップデートしてした方がよいといいます。

3つ目が、「ITは専門分野でなく、全員の仕事」という認識を持つこと。今のデジタルネイティブ世代がそうであるように、もはやデジタルは「仕事・生活の基本。」以前、よく耳にした「私、ITオンチなんです」といった言葉は、「私、仕事ができません」とイコールであり、「わからなければ聞く勇気を持つ。どうしても苦手なら、黙って任せる。口は出すけど、金は出さない。これは最悪です(笑)。」

 

未来を予測する最良の方法は未来を造ること

組織として業務そのもののDXをどう進めていくか。ここでもいくつかのマインドセットが必要になるといいます。

その1つが「パッケージソフトを、そのまま活用する」

本来の企業のミッション、社会貢献につながるコア業務以外の、ノンコア業務はパッケージソフトで大半はカバーできると指摘。

「意見や情報のシェアのために開くような会議は減らし、様々なベストプラクティスが集約されたパッケージをそのまま、どんどん導入していくことをお勧めします。」

 

 

2つ目が、「データを直接見る文化を定着させる」

そのためには、数字が信用できる状態で保存されるセキュリティの堅牢性と、自動運用・アップデートが実現する環境のデザインが重要だといいます。

3つ目が、新たなイノベーションを生むヒントとして「会社に昔からあるアセットやリソースに着目すること」

例えばUber Eatsは、昔からある町の飲食店、誰もが持っているスマホ、あとは個人が所有する自転車やバイク。それをアプリでつなげることで生まれ、定着しました。

ビジネスも同様で、昔からあるアセットやリソース、データにこそイノベーションに化けるポテンシャルがある。こうした発見、着想を生み出すためにも、「DXにおいて最も重要なことは、組織を構成する経営者、マネジャー、社員すべてのマインドセットのアップデートなのです。」

まだ見ぬ未来に不安を覚える人もいることでしょう。ここで澤氏はピーター・ドラッカーの言葉である「未来を予測する最良の方法は未来を造ることだ」を提示。

「誰かが造る未来を受け入れるより、自分から造っていくマインドセットを持てば俄然、ワクワクしてきませんか」とし、テクノロジーの力で素敵な未来を作っていきましょうと力強く語ります。

最後にCoupa社長・小関貴志との対談にシフト。経営者同士、さらに内容を深堀りする中で、組織全体でDXを進める上での制度設計の必要性や新たな評価の仕組みの構築とその言語化、合意できる状態へけん引していく重要性について意気投合。

 

 

最後に「経営者はこうやって世の中を良くしていくんだというメッセージを積極的に発していただきたい」とし、現場で働く一般の社員の方々に向けても、「現場だからこその意見をぜひマネジャーや経営層にメッセージアウトする勇気を持ってほしい」と澤氏。

視聴者の方々を鼓舞する助言でセッションは終了しました。