積水化学工業の購買DX導入の背景

積水化学工業は、住宅、環境・ライフライン、高機能プラスチックス、メディカルの4つの事業領域を持つ総合化学メーカー。2023年時点で売上高1兆2,565億円、営業利益944億円、従業員数約2万7,000名のグローバル企業として、国内外で幅広い事業を展開しています。

 

積水化学工業の購買DX戦略 〜3年間の導入プロセスと今後の展望〜

同社は2019年から購買DXの取り組みを開始。モデル導入で12ヶ月、その後20ヶ月かけて国内の直営68拠点に展開しました。

現在のユーザー数は約3,300名で、Coupaでの伝票枚数は約25万枚。購買額は年間約250億円で、全て間接材です。これには設備購買のほか、エッキングサービス、Amazonをはじめとするカタログ購買が含まれています。

Coupa導入の目標として、通過率8割、5年間でコスト5%削減を掲げる中、積水化学の直轄工場と研究所では、現在8割の通過率を達成。コスト削減効果は現状で2%ほどで、描いたカーブには乗っているといいます。
直営でも現場部門のチェンジマネジメントができないケースが多く見受けられる中で、高原氏は「粘り強くやっていく以外に道はない」と話します。

積水化学工業では、2030年時点での業容2倍を目指しています。高原氏は「経営者から間接人員を増やさず業容2倍を達成してほしい、というメッセージを感じる」と話します。
購買部門、経理部門の業務の自動化が実現できれば、業容2倍時に現状の人員で対応し、この目標が実現できると高原氏は期待しています。

Coupaシステムの選定にあたっては、競合2社の製品と比較検討し、すでに導入している企業にヒアリングを実施しました。そこで明らかになったのはCoupaの安定性です。

他社のシステムではシステム停止や決算処理の失敗などがあったという声が上がった中、Coupaは安定して稼働できていることが分かったのです。加えて、クラウドネイティブという新しい技術を活用したシステムであることも、決め手になったといいます。
 

購買DX導入のプロセス

積水化学工業の購買DX戦略 〜3年間の導入プロセスと今後の展望〜

積水化学工業の購買DX導入は、大きく3つのフェーズに分けられます。

まず積水化学工業では、モデル導入として、主要3工場でCoupaシステムの導入を実施。このフェーズでは、コンサルタント6名、本社や事業部から8名、システム子会社や各工場から合わせて6名が参加しました。

このとき注目したのが、変革への不安の解消です。「いままで購買部門が対応してきた業務の半分が自動化すると、購買部門の担当者は何の仕事をしたらいいのかと不安になる。そこに寄り添うことが重要」と高原氏はいいます。

加えて、新しいシステムに馴染むことへの課題もあります。積水化学工業では、自社で整備したシステムを利用し、20年近く改善し続けながら対応してきました。そのため時間をかけて取り組むことで、こうした不安の払拭を図ろうとしています。
さらに、各工場に1名ずつシステム担当を追加配置し、購買担当者のフォローに対応しました。

モデル工場への導入が2年かかりましたが、その後の全社展開は自社で行うことにしました。コンサルタントを0にした代わりに、社内の人員を大幅に拡充。各工場から2〜3名を兼任で配置したほか、社内外にヘルプデスクを配置しました。

モデル導入から2年後の2023年12月には、直営拠点68ヶ所全てで展開が完了。現在は定着化を進めています。高原氏は「全社展開後も利用件数が伸び続けている」と、継続的な成長を報告しました。

高原氏は、この段階的なアプローチについて「モデル工場での検証に時間をかけたことで、全社展開がスムーズに進みました」と評価しています。「経営方針としてCoupaの導入を位置づけたことで、全社的な取り組みとして推進できました」と、経営層の支援の重要性も強調しました。
 

積水化学工業の購買DX戦略 〜3年間の導入プロセスと今後の展望〜

全社展開の5つのフェーズ

積水化学工業の購買DX戦略 〜3年間の導入プロセスと今後の展望〜

積水化学工業の購買DXは、5つのフェーズを経て全社展開されました。

第1フェーズ:パンチアウトカタログの拡充
高原氏は「パンチアウトは生産性が非常に高いツール」と強調。これまでの出入り業者と比べて、約15%のコスト削減につながっています。
加えて、購買・経理の業務がほぼ0になりました。工場の担当者が作成した伝票を上司が承認した後、物品納入から請求書処理、支払いまでが自動化されることで、伝票処理は半分の工数で済むようになりました。高原氏は「今後は、より戦略的な業務に人員を振り分けたい」としています。

第2フェーズ:既存サプライヤーとの取引を電子化
この取り組みについて、「ガバナンスの観点から非常に重要」と高原氏。
Coupaサプライヤーポータルでの電子取引化により、全ての購買データが可視化され、システム上でのワンオペレーションを禁止することで、不正の抑止に大きく寄与しています。現在、日本国内全ての拠点で本システムの導入が完了しており、購買プロセスの透明性が大幅に向上しています。

第3フェーズ:ホステッドカタログの登録
高原氏はホステッドカタログについて「サプライヤーとのWin-Winを実現するために必要」と話します。ホステッドカタログは金額も件数も少ないものの、もともと付き合いのあるサプライヤーからの購買に対応すべく、77社2,000品番をカタログ化しました。
高原氏は「工場の購買担当者として、付き合いのあるサプライヤーとの取引が無くなることは不安に思うところ。購買額や件数が少ないからと対応を後回しにするのではなく、工場の担当者がこれまで築いてきた関係や努力を無駄にしないことも重要」と話します。

第4フェーズ:ソーシング機能導入による、戦略的な購買活動の強化
長期間、見直しがされていない契約が多い中、定期的に相見積と契約内容の見直しを実施。適正価格の維持に貢献しているといいます。

第5フェーズ:データ分析の強化と集中購買組織の設立
2023年10月に集中購買組織を設立し、間接材を中心にデータ分析を実施。具体的には、データ分析業務に専任で1名配置し、購買状況の把握や交渉先を選定しています。
 

Coupaによるカタログ購買がもたらす効果

積水化学工業の購買DX戦略 〜3年間の導入プロセスと今後の展望〜

Coupaシステムの導入は、請求書処理の負荷を大幅に軽減しています。
Coupaを利用していないサプライヤーは月末に業務が集中しがちですが、Coupaを利用しているサプライヤーは、毎日請求書処理が行えるようになりました。この平準化により、経理部門の業務効率が向上し、より戦略的な業務に時間を割くことが可能になったといいます。

また、購買プロセスのタッチレス化も大きく進展しています。
製造担当者が上司の承認さえ得れば、仕入れから支払いまでの業務が自動化。これにより、工数が大幅に削減され、重要な業務へのリソース再配置が可能になりました。高原氏は「2023年12月に全社展開を完了しましたが、その後も定着化が進み、利用件数は伸び続けている」と話します。
一方、「Coupa導入後も汎用品を見積購買していることも多いので、今後はこれらをカタログ購買に移行していく」と、さらなる改善の余地があることも指摘しました。

カタログ購買の導入は、大きなコスト削減効果をもたらしました。「当初は登録件数が少なく、交渉もしづらかったのですが、現在は購買金額も増加したことで、サプライヤーとの価格交渉がしやすくなってきている」といいます。

見積プロセスについても、Coupaシステムを活用した改善が進んでいます。
高原氏は「相見積をCoupaにデータとして保存し、可視化することで、価格を落とす余地がどのくらいあるのか検証できるようになった」と説明しています。

さらに、徹底したデータ分析と比較購買を実施することで、データ駆動型の意思決定の重要性を強調。具体的には「高額品は集中購買組織で検討する一方、低価格品は各拠点の購買部門が取り組むという役割を分担することで、さらなる購買活動の効率化を図りたい」と高原氏は話します。
 

積水化学工業の購買DX戦略 〜3年間の導入プロセスと今後の展望〜

今後の業務変革の実現に向けては、「カタログによる適正価格の維持」「業務の徹底した自動化」「拠点購買担当の重要案件への最適化」「集中購買組織による現場サプライヤーの集約」に取り組むといいます。

海外の間接材購買システムでも、Coupaが使えるように準備するほか、将来的にはシステム統一でグローバルで可視化できる環境を整えることで、ESG評価にもつなげたいと意気込みを語りました。
 

積水化学工業の購買DX戦略 〜3年間の導入プロセスと今後の展望〜

積水化学工業は「SEKISUI環境サステナブルビジョン2050」を掲げ、環境に配慮した事業活動を推進しています。その中で、調達においてはグリーン調達制度を導入し、調達品の評価に取り組んでいます。

高原氏は「将来的には、環境影響に関するサプライヤー評価や外部からの情報をCoupaに集約して可視化し、経営層への伝達も効率的に実施できるようにしたい」と将来の展望を語りました。

一方で、グリーン調達とコスト削減のバランスについては課題があることも指摘しています。
「CO2だと効果を明示しやすいが、グリーン購買はコスト試算が表現しづらい」と述べつつも、「15%のコスト削減が、グリーン調達への投資の原資になる」と、その両立の可能性を示唆してセッションを締めくくりました。
 

積水化学工業の購買DX戦略 〜3年間の導入プロセスと今後の展望〜