地政学リスクの高まりなど環境変化に対応した調達改革が必要
前半はアクセンチュアの佐伯氏から、昨今の調達領域の潮流について解説がありました。これまでの調達改革では、コスト削減や業務効率化、重要なサプライヤーとの関係の密接化などが念頭に置かれていました。ところが、地政学的リスクの増大や疫病の発生など、世界情勢が目まぐるしく変化する中、サステナブルな調達が脅かされつつあります。
こうした状況下での調達改革には、新たに3つの要素が求められるようになっています。
1つ目は、サプライチェーン全体を俯瞰した変革です。日々刻々と変わる世界の動向を捉え、洞察を加えながら安定的に調達を実現していく必要があります。
2つ目は、Tier2以降のサプライヤーを含めたリスク管理です。変動の激しい昨今の世界情勢下では、特定のサプライヤーからの調達がいつできなくなるか分かりません。そのため取引ボリュームの多くないTier2以降のサプライヤーとも関係性を構築、維持していくことが欠かせなくなっています。
3つ目は、会社全体の支出に関わるコスト削減です。これまでのような購買のコスト削減に限らず、購買するオペレーションを担う自社リソースのコストも削減していくことが求められます。
アクセンチュアでは調達改革を支援していますが、その際に活用しているのが「改革ロードマップ」。ロードマップでは、現状から目指す姿までの流れを、改革の実現に向けての基礎固め、拡張、データドリブンの3つのステップを設けています。
「一足飛びに目指す姿になれるわけではありません。まずはしっかりと基礎を固め、その上で業務高度化や新システム導入といった拡張のプロセスを経て、最終的に日々の業務のデータを蓄積し、PDCAを回しながら随時業務改善に取り組める体制を構築していくことが重要です」(佐伯氏)
レゾナックの調達改革を阻む3つの課題
こうしたアクセンチュアの支援のもと、レゾナックはどのように改革を進めているのでしょうか。後半はレゾナックの内田氏がその取り組みについて紹介しています。レゾナックでは従来から調達に3つの課題を抱えていました。
1つ目は「市場不確実性」です。レゾナックでは半導体やモビリティなど、浮き沈みの激しいセグメントの売上高の割合が多く、過度に在庫を抱えられません。しかし、調達として原料がないためにものづくりや営業ができない事態になってはいけないため、各業界の動きに応じた適切な調達という難しい舵取りを強いられています。
2つ目は「サプライヤーリスク」です。これまでは原材料の生産を安価に抑えるために、生産拠点の海外シフトが積極的に取り組まれてきました。ところが地政学リスクが高まる中、これらを日本で調達しようと試みても、国内では原材料の高付加価値化が進行しているため、従来の価格での調達が困難なケースが増えています。サステナブルな調達のためには、サプライヤーとの関係性がますます重要になっています。
3つ目は「旧来型の組織体制」です。これまで社内では、部署ごとに業務の最適化に取り組んできました。その結果、業務の属人化が進んでしまい、部署間の連携が進まない状態に陥ってしまいました。
横断的な改革には組織設立だけでなく現場部門の腹落ちが重要
3つの課題に対してレゾナックでは、営業から調達、製造、生産管理という、サプライチェーンを俯瞰した横断組織として、グローバルSCMセンターを設立しました。ここでは、部門間の横串になる機能を確立し、需給管理を一元化。さらに部門間での情報連携の強化に取り組みます。
「ポイントは現場部門と距離感を近づけて話すことです。組織を作って横串で連携するだけでは、新しい部門は何をしてくれるのか分からず、現場部門から距離ができてしまうことが多くあります。それを解消するためにも距離感を近く話していくことが重要です」
その上でアクセンチュアの支援のもと、改革ロードマップに従って今後の取り組みについて計画。特に工数をかけたのは「課題設定」で、半年の時間を費やしながら、関係する部門での当事者意識の醸成に取り組みました。
「課題の設定に至るまでに、社内で何が起きているのかという課題抽出には時間と工数を割いて取り組みました。現場部門に課題を共有し、腹落ちして一緒に何ができるか考えてもらうためのプロセスが大切だったと思います」と内田氏。
さらに「課題設定の際に第三者との議論が有効だった」と話します。「長く会社に属していると会社の常識が当たり前になってしまいますが、それが世間の非常識になることもあり得るので、そのあたりを議論できる第三者の関与は重要でした」
サプライヤーへの負担感なくコミュニケーションの効率化を実現
こうしたプロセスを経て、課題を解決し目的を実現する手段に最も適していたのがCoupaでした。Coupaの導入により、業務の属人化を減らし、サプライヤーとの円滑なコミュニケーションを築くことを目指しています。
取り組み開始からわずか半年で「道半ば」としながらも、内田氏はCoupa導入の成果を実感しているといいます。
例えば、これまで災害など有事の際のサプライヤーへの確認は1件ずつメールで連絡していました。そのため担当者にとって負担が増えるだけでなく、確認のヌケモレが発生していました。しかし、Coupaを導入することでサプライヤーへ一斉に確認できるだけでなく、サプライヤーがYes/Noで回答できる形式になったため、お互いに負担が少なくスピーディーで効率的な運用を実現できました。
内田氏は今後について、まずはCoupaを使い倒せるようにしたいと語ります。
「社内では『Fit to standard』と言っていますが、 システムを自分たちのやり方に変えるのではなく、自分たちがいかにシステムを使いこなすかが重要だと思います。その上で、BtoBや受発注での業務改善に取り組んでいきたいです」