同社は戦略コンサルティング、BPR、IT導入など、広く手がける総合コンサルティングファームとして、サプライチェーン領域にも注力。数多くの専門コンサルタントを擁し、大里氏はロジスティクス関連領域のリーダーとして大手日系企業を中心にSCM改革や物流コンサルティングをサポート。デジタルを活用したサプライチェーン設計についても多くの経験、知見を擁しています。

難易度が増すサプライチェーンの設計

大里氏はまずサプライチェーンの変化と課題について言及。

近年では、「国内外問わずサプライチェーン上で継続的かつ連鎖的な変化が発生しており、その設計の難易度が増しています」と問題提起します。

その要因の1つがサプライチェーンがはらむ複雑性。調達、生産、物流、販売の間には様々なトレードオフが発生し、サプライヤーをコスト優先で選ぶと生産リズムを崩し全体の効率を下げてしまう。生産拠点を増設すれば物流リスクが高まる可能性がある。昨今ではESGやリスク耐性の配慮など、新しい価値への対応にも取り組まなければならず、全体最適実現のハードルが高まっているといいます。

2つ目の問題がSCM(サプライチェーンマネジメント)部門のサイロ化、データの分断。調達・生産・物流・販売の各部門がそれぞれのKPIを追って改善活動を実施するがゆえ、組織横断での取り組みが立ち行かず、「既存延長に走りがちで将来が描けない、最適判断の瞬発力が不足しているといったケースを散見します。」(大里氏、以下同)

こうした問題解決の方策として、大里氏は「デジタルが『視点の偏り』を排除し、未来志向で俊敏な企画力を持った組織への変革をもたらせるのではないか」という仮説のもとSCM組織改革を提唱。ソリューションの一例としてCoupaを挙げます。

Coupaの優位性としては、各部門でサイロ化していたサプライチェーンに関する情報の集約、活用が実現。また、デジタル上に再現したサプライチェーンの環境上に様々な事業計画や内外のリスク要因をインプットし、その後の変化を追うことで、課題やリスクの顕在化も可能です。

「従来、曖昧だった全体最適に向けた定量測定ができ、各部門が統一した物差しで議論を進めることで、組織全体を俯瞰した未来志向の取り組み、意思決定の瞬発力の向上も実現します」。

アサヒ飲料のSCM改革。部門横断による様々な施策(シナリオ)を実践

ここからは同社が実際にサポートしたSCM改革の事例を紹介。その一つが、本イベントにも登壇されたアサヒ飲料様です。

同社は、部分最適が進行していた生産・物流ネットワークが将来のリスク要因になると分析。需要変動リスクやCSV対応などの課題にも取り組む必要から、現状の生産・物流体制の変革を迫られていました。

しかし、ネットワークの最適化を推進するにあたり、下スライドのように組織活動のサイロ化やスピード不足が課題に。生産、物流も各部門だけの取り組みでは解決しがたい課題を抱えていました。

しかし、定量的な評価指標がないゆえ各具門が抱えるリスクの定量的な共有ができず、間を取り持つSCM部も定量的な評価指標がないゆえに、意思決定に必要な客観的な情報を経営や各部門に伝えられない。

「結果的に施策のシミュレーションが膨大となりあらゆるトレードオフを考慮しきれないゆえ、コストインパクトの大きい生産側に寄りがちな計画を実践してしまうという課題を抱えていらっしゃる状況でした。」

その解決アプローチとして同社サポートにより導入を推進したのがCoupaのプラットフォームでした。

では、実際に部門間協調により、どのような取り組みにチャンレジしているか。アサヒ飲料では営業、生産、物流の部門横断による様々な施策(シナリオ)を企画し、定量的な評価を実践。本セッションで以下の4点について紹介されました。

 

  1. 販売戦略に基づく将来シミュレーション
    将来、商品の戦略上のポートフォリオが変わった場合、サプライチェーン全体にどういった影響があるのか。生産の内外製の比率や物流の負荷やリスクを予見し、課題を特定。
     
  2. 工場投資の効果と物流影響の検証
    課題を克服するために工場の投資はどうあるべきか、物流の影響を解消できるのかを検証。
     
  3. エリア需給率を高める生産地検討
    ブロックごとで需給を完結し、長距離輸送を減らし運べなくなるリスクを解消する場合、どこで何を作るのが需給率を高める上で効果的なのか、最適化計算を使って算出、特定。
     
  4. 物流拠点の最適配置検証
    輸送リスクが高まる中で、いかに拠点を消費地の近くに置くか。Coupaの「グリーンフィールド分析」を活用し物流コストの削減とリスクの解消、この両立を目指しながら、最適な拠点配置を検討。

これらのアプローチに取り組む中で、プロジェクトメンバーの間で、アウトプットを共有しつつ課題を特定。課題に対しさらに効果的な新しいシナリオを考案する、シミュレーターの発展的な使い方について意見を出し合うなど、スピード感を持ったいい流れが生まれてきたといいます。

デジタルはあくまで手段。ミッションと課題定義が大切

様々なプロジェクトに関わる中で、アサヒ飲料が成功した要因として、大里氏はデジタル先行ではなく、ミッションや課題定義を明確にすることからスタートしたことを挙げます。

下スライドのように、経営アジェンダとSCMの課題をきちんと紐づけた上で、組織ミッションとペインを明確化。さらに実際のシミュレーションを作っていく過程で、課題設定と適切なモデリングを実施し、仮説・検証を実践。さらに実践の中で生じたフィードバックを基に、さらなる活用法を抽出していく。

「自分たちがネットワーク全体で何をしていくべきかを考え、ロードマップを作成。そのサイクルをきちんと回し、サプライチェーンデザインの最適化に向けた継続的な活動につなげていることがポイントです。」

デジタルはあくまでも手段。組織ミッションに対する組織活動のギャップを見定める課題定義を前提に、いかに既存延長に留まらず、サプライチェーンの活動を変えていくか。さらにプロジェクト活動の点検も綿密に実践し、検証。組織横断で仮説を出し合い、シミュレーション環境に反映していく。こうしたプロセスをトップの理解を得ながら確実に実践していくことが要諦だといいます。

さらにサプライチェーンデザインは一度やったら終わりではなく、ロードマップの基、継続的にデザインを見直していくことも肝要。同社のような外部リソースも活用し、現状の課題定義から着手してみてはいかがでしょうか。