企業を取り巻く環境の複雑化・多角化

最初に水村氏は、企業の外部環境及び内部環境について言及。外部環境では、地政学的リスクの高まりや、ESGなどの共通価値創造への期待、サプライチェーンの複雑化・高度化といった変化が生じ、サプライチェーンのリスクは多角化かつ高度化していると述べました。一方、内部環境は、事業や市場の多角化により経営が複雑化し、売上の成長に伴って利益率が伸びない「稼ぐ力」の低下が生じていると、水村氏は指摘します。

いま日本企業に求められるリスク対応型SCMとは~アビームコンサルティングが解説
出典:アビームコンサルティング株式会社

リスク対応における企業の実態調査

企業が上記のような環境に置かれていることを前提として、水村氏はアビームコンサルティングが実施した企業の調達サプライチェーンリスクに関する実態調査を紹介。

調査の背景には、コロナ禍による供給網混乱後、日本企業と欧米企業の間で棚卸資産回転率の回復に差が生じたことがあります。どちらも2020年に回転率が落ち込みましたが、欧米企業が2021年にかけて回復基調となったのに対し、日本企業は低下が続いています。「日本企業のサプライチェーンにおいて、在庫計画に関する意思決定に何らかの課題があるのではないかという疑問が調査の出発点」と水村氏は説明します。

調査は、売上1,000億円以上の組立製造企業108社を対象に、調達・SCM部門の経営層・管理者層へのインタビューやアンケートの方式で行われました。

調査の結果、コロナ禍での調達途絶危機により20%以上の損失影響を受けた企業が2割、損失影響を把握できなかった企業が4割あることが分かりました。「コロナ禍のような未曾有の事態における、損失影響の可視化の難しさが現れたのだろう」と水村氏は分析します。

日本企業でも、アビームコンサルティングが定めるサプライチェーンリスク対応の成熟度評価が上位25%の企業は、2020年から2021年にかけて棚卸資産回転率が回復していることが分かりました。一方、戦略やプロセスの横断的な取り組みが進んでおらず、成熟度評価が高くない企業は回転率が低下しています。
 

いま日本企業に求められるリスク対応型SCMとは~アビームコンサルティングが解説
出典:アビームコンサルティング株式会社

では、サプライチェーンリスク対応の成熟度が高い企業とそうでない企業にはどのような違いがあるのでしょうか。2つのグループ間には、課題解決を阻む次の5つの壁があると水村氏は指摘します。

①調達リスク発生時の対応ルールや、在庫管理の役割と責任が曖昧
②有事対応プロセスが統一されておらず、業務が属人化
③調達・SCM部門の人材要件が未整備
④サイロ化によるサプライチェーンシステム、データの散在
⑤平時からの仕組み作りへの投資に対する経営層の無理解
 

平時からのリスク対応の仕組み作りのために日系企業が取り組むべき方向性

リスク対応型SCMのポイントとなるのは、平時からの仕組み作りであると水村氏は述べます。平時からリスク対応の方針やプロセスを整備しておくことで、実際にリスクが顕在化した際、迅速なリスクの検知や初動が可能となり、影響緩和と回復期間の短縮へとつながるためです。

それを踏まえて、水村氏は日系企業が取り組むべき3つのポイントを挙げました。

ポイント①:調達リスク緩和の取り組みを調達部門のミッションに設定してKPIを再定義し、コストマネジメントの基盤を強化

ポイント②:企業の状況に即して重視する人材要件を定義し、調達・SCM部門の人的資本の構成状況を把握した上で、定義に近づける施策を実行

ポイント③:サプライヤー情報の一元管理や統合計画ソリューションの導入、データ管理基盤の構築など、リスク低減に効くテクノロジーを活用
 

いま日本企業に求められるリスク対応型SCMとは~アビームコンサルティングが解説
出典:アビームコンサルティング株式会社

Coupaソリューションの活用でリスク情報収集・分析から調達購買まで実現可能

セッションの後半は、水村氏に代わって渡邊氏が登壇。リスク対応型SCMに活用できるCoupaソリューションについて解説しました。

いま日本企業に求められるリスク対応型SCMとは~アビームコンサルティングが解説

渡邊氏は、リスク対応型SCMの実現に向けて取り組むべき2つのポイントを挙げます。

1つ目は、調達リスクの抑制につながる平時からのサプライヤー評価・リスク情報の一元管理です。この取り組みには、Coupaの「Third Party Risk Management」のモジュールが活用できます。

2つ目は、企業全体のコストマネジメントです。リスク対応型SCMには、経営状況に応じた支出のアクセルとブレーキの判断が欠かせません。この取り組みに貢献するCoupaソリューションとしては「Source to Pay」が挙げられます。

続いて渡邊氏は、Coupaソリューション活用の流れの具体例を紹介。

①リスク情報収集:「Risk Assess」のモジュールで、アンケートを使ったアセスメントによるサプライヤーのリスク調査および情報収集を行う
②リスクデータ分析:「Risk Aware」のモジュールで、データを基にリスクの顕在化が懸念されるサプライヤーの抽出を行う
③調達:リスク分析結果を踏まえ、「Sourcing」モジュールでサプライヤーを選定する
④購買:「P2P」モジュールで、選定したサプライヤーと交渉済み価格で取引を行う

上記により、「リスク情報収集・分析から調達購買までが、Coupaソリューションを基盤にワンストップで実現可能である」と渡邊氏。

Risk Assess及びRisk Awareモジュールの活用は、リスク情報を含んだ全ての取引先情報をCoupaに集約・管理することで、迅速にリスクの影響を検知し、的確な対応につなげます。

一方、Source to Payモジュールは調達購買領域のプロセスをEnd to Endでカバー。Coupaを間接材支出管理基盤として活用することで、企業全体の支出をコントロールし、サプライチェーンリスクによる損益影響の緩和に寄与できます。
 

いま日本企業に求められるリスク対応型SCMとは~アビームコンサルティングが解説
出典:アビームコンサルティング株式会社

最後に、再び水村氏が壇上に立ちセッションを振り返りました。平時からのリスクへの備えに対しては、投資対効果の算出に加え、「掛け捨て保険」のような考えを持ちながらの投資判断が必要であると経営層に向けて提言しました。