
世界5大都市(ラスベガス、フランクフルト、ロンドン、東京、サンパウロ)を巡るCoupa最大の年次カンファレンス「Coupa Inspire World Tour 2026」が東京で開催されました。創業20周年の節目となった今回の東京公演には、1,000名を超えるお客様、パートナー様、調達・財務リーダーが結集し、会場は大きな熱気に包まれました。
今回のキーノート(基調講演)のメインテーマは「ネットワーク効果 ―― つながりが生み出す集合知」です。予測不能なVUCA時代において、企業が自社の力で確実に利益(ボトムライン)とキャッシュを創出・コントロールできる「支出管理(BSM:Business Spend Management)」の重要性と、AIエージェントが自律的に業務を遂行する未来のロードマップが示されました。
1. 20年の「データ」を燃料に:SaaSからAGaaS(Agentic as a Services)への劇的進化

オープニングに登壇したCoupa株式会社 代表取締役社長の反町浩一郎は、Amazonのジェフ・ベゾス氏が創業時に描いた「成長の弾み車(Flywheel)」をひも解きながら、企業間取引(B2B)におけるネットワーク効果の威力を語りました。
「1社が加わるたびにデータが豊かになり、価格・リスク・サプライチェーンに関するより深い知見が生まれる。その知見がコミュニティ全体に還元され、成長の弾み車は加速し続ける」
2006年の創業以来20年間にわたり蓄積されたCoupaのプラットフォームには、世界3,200社以上の導入企業、1,000万社を超えるサプライヤーが参画し、年間取引データは1,600兆円(10兆ドル)に達しています。コミュニティの集合知によって生み出されたコスト削減効果は累計50兆円にのぼり、Fortune 500企業の50%以上が採用しています。欧米で標準化が進む一方、日本市場における浸透率はまだ20〜30%にとどまっており、残り7割の未開拓な成長フロンティアが存在します。
この膨大なデータ資産を背負い、反町は以下の重大なビジネスモデル転換を宣言しました。
「Coupaはもはや単なるSaaSの会社ではありません。私たちは、AIエージェントを通じて成果そのものを提供する『Agentic as a Services(AGaaS)』の会社へと進化します」
人がシステムに手作業で記録を入力・承認する従来のSaaSから、AIエージェントがポリシー遵守、不正検知、価格交渉、リスク管理を自律的に判断・実行(Act)する「自律型支出管理(Autonomous Spend Management)」へのパラダイムシフトが提示されました。
2. 自律型支出管理の統合基盤「Coupa Compose」とRossumの買収

続いて、Invoice to Pay 最高製品責任者(CPO)のRajiv Ramachandranより、自律型支出管理を制御するマスターコントロールセンター「Coupa Compose」が発表されました。
Coupa Composeは、以下の3大コアテクノロジーで構成されます。
- Navi Agent Studio:下請法や社内規程などの自社固有ルールに沿って動くAIエージェントを、専門コードなしに自然言語で簡単に構築・監視できる環境
- Smart Intake & Orchestration(SIO):買収したTonkean社のAIフロントドア技術を統合し、SlackやTeamsなどの日常ツールからの依頼を最適なバックエンド処理やエージェントへ自動で振り分け・オーケストレーションする仕組み
- Navi Connect:標準規格「MCP(Model Context Protocol)」サーバーに対応し、既存ERPや外部エージェントと入れ替えなしでセキュアに相互連携(Agent-to-Agent)を実現
さらに、ドキュメント処理AIの世界的リーダーであるRossum社の買収が明かされました。ドメイン特化型言語モデル(T-LLM / DSLM)を活用することで、テンプレート不要であらゆる形式の紙・PDF請求書から1分未満で高精度データ抽出・自動仕訳を完了させ、買掛金(AP)業務の完全自動化・タッチレス化を実現します。
3. 成果が出るまで伴走する「CX360」と「Coupa Catalyst」

カスタマーサクセス担当 上級副社長の Suzanne Bourdeaux からは、テクノロジーを絵に描いた餅に終わらせず、確実に実務成果へと変えるための顧客体験アプローチ「CX360」が紹介されました。
AIエージェントはツールというよりも「新たなデジタルコワーカー」であり、継続的な学習とコーチングが必要です。新サービス「Coupa Catalyst(カタリスト)」では、Coupaの専門AIエンジニアが顧客チームに深く入り込み、定額AIクレジットを活用しながら最初のユースケース構築から本番運用・全社拡張までをアジャイルに伴走支援します。
また、24時間365日自律的に問い合わせトラブルを自己解決し、必要に応じて人の専門家へスムーズにつなぐサポートAIエージェント「Lyra(ライラ)」により、すでにサポートチケット解決時間を34%短縮する成果が出ていることが共有されました。
4.【特別対談】日本初「Trendsetter Award」受賞・三菱重工業が証明した8年の変革軌跡

キーノート後半では、5月にラスベガスで開催されたInspireで、グローバルで最も革新的な支出管理改革を成し遂げた企業に贈られる「Trendsetter Award」を日本企業として初受賞した三菱重工業株式会社 SCM部 部長の岩松広典 氏 が登壇し、反町との対談が行われました。
世界141社におよぶCoupa統合を完遂した三菱重工様の8年間のストーリーには、日本企業が変革を成し遂げるための極めて重要な示唆が詰まっています。
① ボトムアップの限界と「トップダウン要求」への舵切り
2018年に米国5社から導入を開始したものの、2019年の欧州展開時にはボトムアップでの提案だったため、現地22社中6社しか同意が得られず難航。「導入効果を先に証明せよ」という現場の抵抗(悪魔の証明)に直面しました。 この壁を破るため、2023年に経営会議へ諮り、全社導入を「経営層の総意(トップダウンの方針)」として承認・予算確保したことで、ロールアウトのスピードが劇的に加速しました。
② フィリピン拠点での「内製化」と完全リモート展開
外部コンサルタントに丸投げするのではなく、WBS(作業分解構成図)を標準化し、システム連携作業をフィリピンのグループ会社へスキル移転(内製化)。現地へ赴くことなく完全リモートで導入を回す体制を構築し、わずか2年間で米州・欧州・中東・APACの約70社を一気に立ち上げました。現在ではグローバル統一ヘルプデスクもフィリピン拠点から一元管理されています。
③ 141社のデータを一元化し、不正検知AI「Spend Guard」を実行
141社すべての支出データが集約されたことで、AI機能「Spend Guard」を通じた不正・誤り支出の1次スクリーニングが可能になりました。人間では不可能な膨大な全取引データから、二重支払いや通貨間違いの兆候を自動検知し、強固なガバナンスとコスト適正化の両立を果たしています。
岩松氏は全国の改革リーダーに向けて、「ボトムアップで現場の声を拾いつつも、最後は組織としてトップダウンで決定すること。そして外部任せにせず自分たちで運用できる『内製化』の仕組みを作ることが成功の鍵になる」と力強いメッセージを送りました。
5. おわりに:AI-Readyな組織へ、共に踏み出す一歩

キーノートの締めくくりとして反町は、「商取引の未来を変える、コミュニティ・ネットワークの構築」というビジョンを掲げました。
AIというテクノロジー自体は、近い将来どの企業でも平等に利用できるようになります。だからこそ差がつくのは、「バラバラな支出データを1つに集め、AIが正しく読める状態(AI-Ready)まで足元の業務とマスタを整えられるか」という組織の実行力です。
遅れれば遅れるほど、本来得られたはずの数年分の利益ポテンシャルを失ってしまいます。CoupaのネットワークとAIエージェント、そしてコミュニティの力を携え、自律型支出管理へ向けた変革の第一歩を今すぐ踏み出していきましょう。