【無料視聴】物流コスト改善に貢献するネットワークデザイン実践

2024年問題や脱炭素化の流れ、燃料費や人件費高騰などによる物流コスト増加など、企業の物流、運送業界を取り巻く環境は厳しさを増し続けています。本オンデマンドセミナーでは、昨今の物流を取り巻く環境を整理しつつ、企業として認識すべき課題や対策について事例やソリューションについて交えながら解説していきます。

無料視聴

3つの「100年ブランド」を継承し価値を高める

三ツ矢サイダー、ウィルキンソン、カルピス⸺いずれもアサヒ飲料を代表する人気商品であり、100年を超える歴史を持つ飲料ブランドだ。同社が掲げる『100年のワクワクと笑顔を。』は、人生100年時代における顧客への約束であり、企業としての行動指針を示している。同社では、ワンダ、十六茶、バヤリース、モンスターエナジーなど、多彩なブランドの育成とポートフォリオ拡充を通じて、成長戦略を加速させている。SCM本部 SCM企画部 プロデューサーの小野澤次郎氏は次のように話す。「アサヒ飲料が手掛けるサプライチェーン全体の流れを、コストと安定供給の両面から最適化するために、2020年1月にSCM本部が新設されました。

私が所属するSCM企画部では、『工場・ラインの生産品種』と『物流拠点配置』の最適化シミュレーションを通じて、全社視点でのトータルコスト管理、中長期的なSCM戦略の策定を担っています」アサヒ飲料では、全社方針として「ブランドを磨き、ブランドで挑む」「新しい価値を生み続ける」「しなやかで強い経営基盤を確立する」の3点を掲げている。その中でSCM本部のミッションは、成長を支える安定供給、欠品も過剰もない需給、コスト効率の全体最適化によりその実現に貢献することにある。

SCM本部が取り組んでいるこれらのテーマは、サプライチェーン計画・管理における永遠の課題とも言えるものです。SCM企画部では、最適化シミュレーションというテクノロジーを活用し、生産設備から物流拠点までを見通した『全体最適の視点でのサプライチェーン改革』に挑戦しています。これを支えているのが、Coupaの Supply Chain Design & Planning(SCD&P)です」(小野澤氏)

物流の最適化により平均輸送距離8%削減に貢献

Coupaの Supply Chain Design & Planning(SCD&P)は、デジタルツインによって現実世界のサプライチェーンをシステム上で再現し、サプライチェーン全体の可視化、コスト評価、意思決定などを可能にする。ネットワーク、生産と在庫、輸配送ルートの最適化を通じて利益を最大化するとともに、市場や為替など環境変化に伴う影響を予測して事業リスクを最小化することが可能だ。

「SCM本部がサプライチェーン改革に取り組むことになった直接的なきっかけは、2018年夏の猛暑と西日本で発生した自然災害での飲料運搬用トラックの不足と、これに伴う配送遅延という飲料業界全体が直面した問題でした。これが経営層を動かし、2020年初頭から始まった『サプライチェーン改革プロジェクト』では、 Coupaを活用した最適化シミュレーションが重点項目のひとつに位置づけられました」と小野澤氏は振り返る。
飲料業界は夏場に需要のピークを迎える。炭酸飲料系に強いアサヒ飲料では、夏冬の需要差は2倍近くに達するという。最盛期に向けて数ヶ月前から生産して適切に保管し、需要に応じて保管場所や輸送計画をきめ細やかに調整していく必要がある。生産部門と物流部門の連携や調整が難航することも珍しくない。入社からの約8年間、物流領域を経験した小野澤氏は、需要の変化に対応し続けることの難しさを実感してきたという。

プロジェクトは『輸送ネットワークの再整理』や『物流拠点配置』など物流領域の最適化から着手し、『工場・ラインの生産品種』、『短期生産計画』など生産領域の最適化に取り組みました。この時特に重視したのが、生産と物流それぞれの最適化ではなく、生産から物流までを一体的に捉えた上で、コストと安定供給の両面から最適化することです」(小野澤氏)

個別最適から全体最適への改革は、生産と物流の間にある壁を取り払うチャレンジでもある。小野澤氏らはこの難題にどう立ち向かったのか。

「まず物流領域の改革について、ビジネスが急成長する過程で拡充させてきた現在の物流拠点/ネットワークが、最良のデザインなのか、ムダや非効率がないかを明らかにしました。生産、物流それぞれのプロセスにかかるコストを明確化し、Coupaによる最適化
シミュレーションで理想的なネットワークを描き、現実との間にどれだけのコスト差があるのかを検証したところ、生産後の倉庫間での転送に大きなコスト改善ポテンシャルがあることがわかりました」(小野澤氏)

アサヒ飲料では、日本全国を6つのブロックに区分し、9つの自社工場を中心にそれぞれのブロックで製造と流通を完結させる「エリア需給」を推進してきた。これにより、適正な自社工場生産率と安定供給を維持しながら物流コストの抑制に結びつけている。

「物流拠点の数、規模、立地、ネットワークを理想的な形に近づけるために、エリア需給の施策に落とし込んで、倉庫間の転送オペレー
ションに反映させました。その結果、平均輸送距離8%削減を達成し、この試みの成功を通じて、私たちはCoupaによる最適化シミュレーションの実効性を確信したのです」(小野澤氏)

また、物流拠点の拡張・統廃合シミュレーションにもCoupaを活用している。販売物量の増加に伴う物流拠点の数や立地、コストなどのシミュレーションを通し、最も効率的な立地を探し出し、意思決定に役立てている。「ここでも重要なことは、生産領域も踏まえた全体最適を意識することです。物流領域で最適であっても、生産拠点から遠くなってしまっては全体コストとしては悪化してしまうので、サプライチェーン全体を踏まえたトータルコストでの評価ができるように分析モデルを設計しています」(小野澤氏)

生産から物流までを一体的に捉えた全体最適化

小野澤氏らSCM企画部は、生産・物流部門の担当者と Coupa による最適化シミュレーションの結果を共有しながら検討を進めていった。「物流領域に続いて生産領域の改革にも取り組みました。例えば中期経営計画で示された3年後までの販売数値を元に、半年から1年間の短期、3年間の中期でのコスト最適化シミュレーションを行っています。適正な自社工場の生産率を維持して原価を抑えつつ、その上で販売目標を達成するためには自社の生産ラインを増強しなければなりません。自社の生産能力が上がった時には、物流にどのような影響があるか考慮する必要もあります。このように、生産と物流双方で将来の影響を確認しつつ、現実的な対処法をそれぞれの関係者で協議していきました」(小野澤氏)
Coupaの Supply Chain Modelerでは、様々な制約を考慮した最適化シミュレーションを複数のシナリオで実行し、協議の結果を反映したシミュレーションを2-3日単位で繰り返すことができる。

「生産部門と物流部門がしっかりと話し合い、合意した上で設備投資・物流計画を立案することが可能になりました。Coupaでは、
複雑に絡み合う影響を考慮しながら、複数のシナリオを同時に検討できることに最も大きな価値を感じています。これは、従来のどんな方法でも不可能だったことです」と小野澤氏は手応えを示す。

また、1ヶ月程度の短期生産計画に対する全体コスト評価のロー
リングにもCoupaを活用している。生産計画はサプライチェーンを構成する複数のシステムを繋ぎ合わせて立案されているが、全体最適を踏まえた上での計画との差異の把握、修正の実施をローリングしている。

「Coupaを通じてコストシミュレーションを行い、生産と物流双方にとってより最適に近づけるよう生産計画に修正を加えていくことにも着手しています。最適化シミュレーションを、ひと月単位の短期的な意思決定につなげていくことができれば、目の前のコスト削減にも大きく貢献できるでしょう」(小野氏)

Coupaでは、複雑に絡み合う影響を考慮しながら、複数のシナリオを同時に検討できることに最も大きな価値を感じています。これは、従来のどんな方法でも不可能だったことです SCM本部 SCM企画部 プロデューサー 小野 澤氏

SCM本部 SCM企画部 プロデューサー 小野 澤氏

30日を要していた計画策定を1-2日に短縮

Coupaのサプライチェーンモデラーは、飛躍的と言えるほどのシミュレーションの高速化、計画策定の効率化を実現した。「一例ですが、将来の目標生産数に対する『生産×在庫×物流』の基本プランの策定に、従来の手順では1つのシナリオに対して30日を要していました。Coupaでは、複数のシナリオに対して1-2日でこれを実行できます。まさに劇的な変化です」(小野澤氏)

SCM企画部はそのほかにもCoupaを活用し、原材料高騰等の外部環境を考慮した原価シミュレーションとリスク対策、アサヒグループ全体のリソースを活用した製造ライン新設シミュレーションなど、様々な検証に取り組んでいる。可視化されたシミュレーション結果は、即座に経営判断に活用できる。評判を聞きつけた他の部門から、シミュレーションの相談や依頼を受ける機会も増えているという。小野澤氏は次のように結んだ。

「Coupa は、全社視点でのトータルコスト管理、中長期的なSCM戦略の策定というSCM企画部のミッションを遂行していく上で欠かせないツールとなりました。誰もが理解しやすい定量的、かつ論理的なデータが、判断をするための共通言語として機能していることも大きな成果です。目的さえ決めれば、あらゆる課題解決策をCoupaで解が得られると確信しています。これからも継続的にモデルを磨き上げ、ローリングに反映させ、SCM領域の激しい環境変化に対応していける強固な体制をCoupaとともに作り上げていきたいと考えています」