製造業を取り巻くVUCA時代とは?

今日のビジネス環境は、VUCA時代に突入しているとされ、あらゆる物事の「不確実性(Volatility)」「不安定性(Uncertainty)」「複雑性(Complexity)」「曖昧性(Ambiguity)」が高まっています。様々な外的要因で製造業界は異なる課題に直面しており、VUCA時代で成功していくために必要な対策、対策について検討し実践していく必要があります。

製造業界は、このVUCA時代で安定したサプライチェーンを構築し、将来を見据えた経営計画を推し進めることが重要と言えます。

製造業におけるサプライチェーンのトレンド

昨今のニュースのとおり、日本の製造業のサプライチェーンは、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)流行と、それに伴う生産拠点のロックダウンや国境の閉鎖、経済情勢の悪化などにより、負の影響を大きく受けました。

経済産業省の「2022年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)*1」によれば、2020年における国内製造業全体の営業利益は8.9兆円と、2011年からの10年間で最も金額の大きかった2017年のおよそ2分の1へと落ち込んだといいます。翌年の2021 年には「輸送用機械器具製造業」「情報通信機械器具製造業」などを中心に回復を見せ、製造業全体の営業利益は約18.0兆円に上ったと言われています。

そのため、2021年時点で、コロナ禍の影響を懸念する業界の声は2020年に比べて減少し、代わりに「半導体不足」などの「部素材不足」や「原材料価格の高騰」「カーボンニュートラルへの取り組み」などが、日本の製造業、あるいは製造業のサプライチェーンにとっての大きな課題として浮上していると、ものづくり白書で報告されています。

加えて2022年以降も、国際紛争とそれに伴う大国間の対立、さらには大規模地震などの自然災害が、製造業のサプライチェーンに負のインパクトを与えています。

例えば、食品メーカーは、国際紛争の影響もあり、原材料不足が悪化して原材料の価格が高騰し、これまでにない購買パターンをとらざるを得ない状況になっています。また、ハイテク製品を製造する企業は、米中関係の悪化などから、製造の委託先を中国から他国へと切り替えざるおえない状況が続いています。さらに近年では、環境問題や人権問題への配慮が、すべての製造企業に求められ、自動車メーカーはEV車などへのシフトを加速させ、部品・素材の調達先が多様化している状況にあります。

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重要性を増す環境・社会問題への対応

上記で述べたように、部素材不足や原料価格の高騰、あるいは、コロナ禍などのパンデミックや大規模地震、水害などの自然災害や国際紛争は外的要因であり、個々の企業がコントロールできるリスクではありません。そのため、これらのリスクが顕在化し、サプライチェーンが相応のダメージを被ったとしても、致命的な社会的制裁を受けるリスクは低いと言えます。

一方、環境問題や人権問題への対応は企業努力によって成しえることです。ゆえに、事業展開やサプライチェーンにおいて、環境保護・人権保護への配慮を怠ったり、それらに反するような行動・行為が認められた場合には、社会的な信頼・信用を失ったり、相当の社会的制裁を受けるリスクが大きくなります。

実際、ESG(Environment、Social、Governance:環境、社会、企業統治)を推進している国際連合(以下、国連)のPRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)イニシアチブによれば、欧州の大手自動車メーカーは、2015年における排ガス不正の露見によって274億ユーロ(≒33兆3,600億円)もの制裁金・罰金を負担しなければならなくなったとしています(*2)。

しかも、PRIの立ち上げや2015年におけるSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の設定といった国連の動きに呼応するように、環境保護や人権保護を企業に求める声は高まり続けています。

例えば、PRIは2006年の発足以降、その原則に署名する投資家(金融機関などの機関投資家)の数を着実に増やしてきました。とりわけ、2015年以降、PRIに署名する投資家はかなりの勢いで増え、その数は2020年に3,000名を超え、2021年には3,800名超に達し、運用資産総額は121.3兆米ドルに及んでいます(図1)。

図1:PRIに署名する投資機関と運用資産の伸び(左軸単位:兆USドル/右軸単位:署名投資家数)
図1:PRIに署名する投資機関と運用資産の伸び(左軸単位:兆USドル/右軸単位:署名投資家数)

このPRIを巡る投資家の動きとして、環境・社会の問題解決や企業統治に後ろ向きの企業は、サステナビリティが低く、投資価値が低いと世界的に見なされていることの現れといえます。また、当の企業側、あるいは経済界も、環境問題や社会問題への対応を経営上の重要な課題として認識しています。

世界経済フォーラムが毎年主催するダボス会議では、2020年において「環境問題に関する世界的な危機に」を主要なテーマの一つとして取り上げ、持続可能なエネルギーの使用や地球環境に配慮したビジネスモデルの導入などが提唱されました。

また翌年の同会議でも「持続可能性を目指す世界の再構築」というテーマが掲げられ、環境問題に関する議論が中心となっています。

こうしたなか、日本の行政府は2020年、2050年にCO2排出量ゼロ(カーボンニュートラル)を実現すると宣言し、それに向けて2030 年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で 46%削減するとの目標を掲げました。それを受けたかたちで、日本を代表する経済団体である一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)も、2021年から「経団連カーボンニュートラル行動計画」を推し進めています。

求められるサプライチェーンの可視化

上述したような環境保護を強く求める社会の動きに製造業が対応していくためには、製品や製品開発・製造におけるCO2排出量を抑えるだけではなく、サプライチェーン全域にわたってCO2の排出量を低減していくことが必要とされます。

そのためには、サプライチェーン全体を可視化して、製造してから顧客に届けるまでのプロセスにおいて、どの部分のCO2排出量を、どのような手段によって、どこまで減らせるのか目標を設定し、計画を立て、実行に移していかなければなりません。

環境性能の高い製品を製造していても、その部品・部材の供給元(調達先)が大量のCO2を排出していたり、製品を搬送するために多くのCO2を排出していては、本来のCO2削減の目的を成していると言えません。また、ESG投資、ないしはSDGsの観点から言えば、自社のエンジニアリングチェーンやサプライチェーンの透明性を確保し、それらが環境問題や人権問題に配慮したものであることを明示することも重要となります。

さらに、サプライチェーンの可視性を高めることは、環境問題や人権問題への対応能力を増すだけではなく、先に触れた自然災害や政情不安、あるいは部素材の不足、価格の高騰といった不測の事態への対応力を高めることにもつながります。というのも、サプライチェーンを可視化し、自社がどこから何を、どれだけ調達・購買しているのか把握することで、どこで何が起きると、どのようなダメージを被るかのリスクを想定することが可能になるからです。

そのうえで、有事の際の対応プランを練っておけば、自社のサプライチェーン、ないしは事業のサステナビリティを向上させることができます。VUCA時代の中で、製造業は環境問題や人権問題に配慮しながら、自社の事業、そしてサプライチェーンリスクの継続性を担保していかなければなりません。サプライチェーンを可視化し、リスクに備えることは、その難題を解決する有効な手段といえるのです。

パート2では、VUCA時代のリスクに備えるための具体的な手法である「サプライチェーンデザイン」についてご紹介します。

<欄外注釈>

*1 参考:経済産業省「2022年版ものづくり白書」
*2 参考:PRIについて
*3 参考:2020年ダボス会議 資料
*4 参考:2021年ダボス会議 資料
*5 参考:経団連カーボンニュートラル行動計画
*図1参考:About the PRI