ERPシステムと調達購買システムの適材適所を知る

ご存知のように、ERPシステムは財務・会計、給与・人事、販売管理、在庫管理、生産管理など、企業の事業運営に欠かせない基幹業務を支えるシステムです。

ただし、ERPシステムで企業の事業運営に必要なあらゆる業務がカバーできるとは言えません。例えば、顧客関係管理(CRM)などの業務はERPシステムではカバーできず、それ専用のシステムを使うのが一般的です。また近年では、人事系(人事管理)のシステムについても、人財管理(タレントマネジメント)の機能を備えた専用のシステムを使うのがトレンドになっています。同様に、直接材、間接材の調達購買のシステムも、ERPシステムとはまた別の専用システムとして普及してきました。

SAPのERPなどは購買と支払管理の機能を提供しています。ただし、そうしたERPの機能は調達購買・支払のプロセス全体を可視化・管理・統制、そして支出の最適化、さらには、コンプライアンスを実現する仕組みとしては不十分です。言い換えれば、ERPシステムは、調達購買業務の担当者にとっても、経理部門が直接材、間接材への支出を管理するうえでも最適なものではないということです。ゆえに、多くの企業が、調達購買・支払管理の効率化・高度化に向けて、専用のシステムを導入しています。

加えて、今日では単一のERPシステムですべての基幹業務をカバーするのではなく、必要に応じて、その業務に特化したシステムをERPシステムと連携して使うというのが、大きな潮流となっています。理由は、ERPシステムに多くの業務を集中させようとすると、システムが肥大化し、例えば、「SAP ERP 6.0(ECC 6.0)」の保守期限が切れ、更新が必須になったときに、多岐にわたる業務、ならびにシステムに影響を及ぼし、更新に多くの手間とコストを要するようになるからである。

調達購買管理におけるERPシステムの課題と限界を認識する

具体的に、調達購買専用のシステムを保有し、ERPシステムと連携させることにどのようなベネフィットがあるのでしょうか。まず挙げられる理由の一つは、ERPシステムは、直接材、間接材の調達購買に関する管理機能が不十分であり、調達購買システムによってその不足分が補える点です。

ここで言う「管理機能の不十分さ」とは、サプライヤーへの発注から請求書の処理、そして支払いに至るまでのプロセスや進捗状況、さらには支出の全体が即座に可視化できないことを意味します。

この可視化が不十分であると、例えば、直接材、間接材の調達購買部門は、社内のどの部門・部署、あるいは個人が、どのような目的と意思決定フローのもとで、何の商材をどのサプライヤーから、いくらで購入しているか、あるいは購入したのかが見えないことになります。それが見えなければ、支出の適正化を戦略的に進めることが困難になります。また、調達購買に関する全社的なルールや法令への違反が起きても、それを即座に見つけることが困難となり、リスク管理を徹底することが難しくなります。

加えて、発注から請求書の処理、支払いに至るプロセスやその進捗が見えないと、経理部門は、直接材、間接材の購入者や購入価格、領収書の情報を追跡するのに多くの時間をかけたり、支払い承認が行われるまで待機する必要があり、効率が悪いといえます。加えて、重複の支払、あるいは支払の遅延といった問題も引き起こされやすくなるでしょう。

また、サプライヤーと経理部門の双方にとって、非効率な紙の請求書発行をなくし、電子請求書に移行することには大きなメリットがあります。ただし、ERPシステムには、請求書のペーパーレス化を実現する仕組みは備わっていません。

調達購買システムの活用で得られるベネフィットとは?

一方、調達購買のシステムを導入し、そのシステムを通じて直接材、間接材の調達購買を全社的に実施することで、調達購買のプロセスが可視化されます。また、調達購買システムとERPシステムを連携させることで、発注から支払までのプロセスや進捗状況もリアルタイムに見えるようになる他、直接材、間接材に対する全社的な支出や、支払の状況も可視化できるようになります。

それによって、調達購買を巡る上述したような課題を解決することが可能になり、かつ、支払いが確定する前に購買に対する承認が予算に与えるインパクトをリアルタイムで把握できるようになります。

調達購買システムの導入は、サプライヤーに対して、さまざまな電子取引の選択肢を提示・提案し、かつ、サプライヤーとの取り引きをすべてペーパーレスで行えるようにする効果も期待できます。・購買システムとERPシステムを連携させることで、サプライヤーとの取り引き開始から発注、請求書の処理、さらには支払までのプロセスをペーパーレス化し、その効率化を図ることができます。

さらに、手間のかかる注文書(PO)と納品書、請求書の3点照合の作業を自動化することもできるようになります。3点照合の自動化によって、支払い処理がスピードアップし、経理部門はサプライヤーに対する債務を迅速、正確に知ることが可能になります。

購買管理システムとERP連携の重要性、株式市場のニーズに対応する

調達購買システムの導入は、企業(特に上場企業)の財務担当者が、財務報告の高い精度と経営リソースの適正な管理というミッションを遂行するうえでも役立ちます。このミッションを遂行するうえでは、企業の財務担当者が、支出管理の方針とプロセスの透明性を確保したうえで、現在の債務を正確に把握できなければなりません。また、予算の編成や承認にかかわるプロセスを適切に確立して管理することも必要とされます。

加えて、不正リスクを軽減するプロセスを適切に定義することも重要となります。すなわち直接材、間接材の購買について「誰が何を承認できるのか」「誰に通知する必要があるのか」「誰が支払いを行えるのか」「どのようにして支払い報告を行うのか」といった点を明確に定義したうえで、それをスシステムに組み込まなければならないわけです。そのとき、ERPシステムに承認プロセスを組み込むこともできますが、それには、かなりのコストと手間が必要とされます。それゆえに、調達購買に特化したシステムを導入し、そこに承認プロセスを組み込むことが適切と言えるのです。

さらに言えば、財務の担当者や調達購買の担当者は、会社のキャッシュフローを健全に保ちながら、リスクの低いサプライヤーを特定できなければいけません。それを実現する実効性の高い手段も、調達購買システムの採用であり、活用と言えるでしょう。

なお、上述したような調達購買システムのメリットは、そのシステムを直接材、間接材の調達購買に関わるすべての従業員と、サプライヤーが使用することで価値が最大化されます。そのため、調達購買のシステムは、全社員にとって使いやすい仕組みであること、もしくは、使うことが各者の負担にならないようなシステムであることが重要です。

ERPシステムで調達購買業務を遂行する場合、その使いやすさを実現する難度は高くなります。ただし、調達購買システムを使うのであれば、ユーザビリティに優れた製品の選定が重要となります。それによって、従業員やサプライヤーがシステムの使い方、扱い方をスピーディに習得し、多くの価値を見出すことができるといえます。