
「Coupa Inspire World Tour Tokyo 2026」のブレイクアウトセッション2-Aでは、
学校法人立命館 財務部 財務経理課 課長の野口 公彦 氏、株式会社野村総合研究所(NRI) シニアコンサルタントの田畑 貴大 氏、商材ソリューションの伴走者であるCoupa株式会社 シニアカスタマーバリューマネージャーの浅野 宏の3名が登壇しました。
テーマは「紙100万枚・13,000時間の削減はいかにして実現したか? 〜立命館が挑んだ1,000名規模の購買業務改革〜」。
2つの大学(5キャンパス)、4つの付属中高、小学校を数え、全国10拠点・教職員数1,000名超を誇る巨大な教育機関である学校法人立命館。同校はいかにして大学特有の複雑な商習慣や制度の壁を乗り越え、Coupaを活用した圧倒的な購買DXを成し遂げたのか?その裏側に迫ります。
1. 「紙とハンコ」からの脱却:学園ビジョン「R2030」が目指す購買業務改革
立命館は現在、中長期ビジョン「R2030」を掲げ、「学び続ける社会の拠点」「人類社会の課題に挑む場」としての進化を目指しています。この教育・研究の質向上を足元から支えるのが、「持続可能な財政基盤の確立」と「DXによる業務効率化」です。
従来、立命館の購買・支出業務は「紙とハンコ」がベースとなっており、リードタイムの長期化、膨大な作業工数、保管場所の圧迫が大きな課題となっていました。
2023年7月、同校はCoupaの導入プロジェクトを本格始動。2024年8月には全国10拠点・職員1,500ライセンスでGo-Live(本格稼働)を迎えました。セッション中には次のような成果が会場の皆様に共有されました。
導入成果の定量比較

作業時間の大幅短縮とペーパーレス化にとどまらず、ユーザーアンケートでも「紙の伝票管理から解放された」「出金処理がスムーズになった」と喜びの声が寄せられています。
2. 立ちはだかった最大の障壁:「学校法人会計基準」と内税・外税の乖離
しかし、プロジェクトの道のりは決して平坦ではありませんでした。最大の壁となったのが、一般企業とは異なる「学校法人会計基準」と「予算管理」の仕組みです。
「内税」と「外税」のギャップをどう埋めたか?
学校法人における消費税の会計処理は「内税」が原則であり、立命館の会計・予算システムも内税処理で構築されていました。一方で、グローバルソリューション であるCoupaの標準仕様は「外税」処理です。
このギャップに対し、プロジェクトチームは構想策定の初期段階(RFP時)から課題を明示。データ連携基盤(Boomi)を中間に挟み、Coupaと会計システム間での「内税・外税の自動変換」を行うアーキテクチャを早期に確立しました。
NRI田畑氏が語る「制度の壁」攻略の2大原則

(NRI 田畑 氏)
- 業界ルール・法的要件(内税など) ➔ テクノロジー(連携基盤)で確実に自動対応する。
- 過去の慣例・運用のこだわり ➔ 要件の根拠を徹底的に問い直し、Coupaの「Fit to Standard(標準機能)」に業務を合わせる。
長年続いてきた慣習を切り離し、「変えるべき運用」と「守るべき制度要件」を明確に切り分けたことが、ブレイクスルーの鍵となりました。
3. 全国10拠点・1,000名超を巻き込む「泥臭いチェンジマネジメント」の真相
全国10拠点・1,000名を超える職員が一斉に新しいシステムに移行するプロジェクトにおいて、定着化のハードルは極めて高いもの、と思われていました。
しかし野口氏は、「実はGo Live(稼働)以降は、思っていたほど泥臭い混乱は起きなかった」と明かします。その理由は、“現場の手間がダイレクトに減るプロセス設計”を最初から組み込んでいたからです。
現場に受け入れられた「3点照合」と「カタログ購買」
Coupa上で「見積・発注・納品/検収・請求」を一気通貫で管理し、システム上で照合(3点照合)を行うことで、出金依頼の自動化(タッチレス化)を実現。Web購買(カタログ購買)の対象を広げたことで、これまで現場を苦しめていた伝票作成や押印・郵送の手間が根こそぎ消え去りました。
さらに、光熱水費や電話料金といった請求書起点の支払いについては、集中処理部門を設置しAI-OCRを活用してCoupaへデータ登録する高度な運用を実現しました。
4. 先回りしたストレス軽減:DAPとコアユーザー巻き込みの工夫
スムーズな定着化の裏には、サポート体制とテクノロジーを活用した「緻密な先回り」がありました。
【工夫 1:コアユーザーの開発段階からの巻き込み】
現場の代表者をプロジェクトの要件定義・開発段階から参画させ、事前フィードバックやハンズオンを実施。
【工夫 2:DAP(デジタル定着化プラットフォーム)の導入】
画面上にナビゲーションやチュートリアル、操作ヒント(ツールチップ)をリアルタイム表示。
マニュアルを開かなくても直感的に操作できる環境を整え、現場の躓きを未然に防止。
【工夫 3:専門ヘルプデスクとFAQワークフローの整備】
学内ユーザーだけでなく、取引先サプライヤー方向けのヘルプデスクも完備。
期末の案件集中や新年度のユーザー入れ替わりにも柔軟に対応できる運用体制を構築。
単に「システムを作って渡す」のではなく、現場が直感的に使える仕組みを事前に徹底して仕込んだことが、1,000名超の定着を後押ししました。
5. 「支出管理の高度化」から「教育・研究活動の高度化」という最終ゴールへ
プロジェクトは業務効率化の「第1ステージ」を終え、すでに「第2ステージ:支出の高度化」へと舵を切っています。

(Coupa 浅野)
Coupa内に蓄積された膨大な購買データを分析し、CoupaのCVM(カスタマーバリューマネージャー)とともに調達成熟度(Level 1 ➔ Level 2以上)を引き上げる取組みを開始。2026年10月にはS2P(Source to Pay)全体をカバーする組織改編(契約課の強化など)を行い、データに基づく決裁基準の見直しを進めています。
そして、次の大きな挑戦が「2,800名の教員向けへのCoupa展開(2027年4月予定)」です。

「今回の購買業務改革の最終ゴールは、単なる経理の作業削減ではありません。無駄な事務手続きを極限まで減らして生まれた資金と時間を、本来の目的である『教員の教育・研究活動』へ還元することです。教員の皆様が研究に集中できるよう、直感的で負担のない環境を整備していきます」(立命館 野口氏)
【まとめ】大学DXの新しいモデルケース
学校法人特有の制度や複雑な組織構造に屈することなく、標準化(Fit to Standard)を徹底し、ペーパーレスと13,000時間の創出を成し遂げた立命館の事例。
それは、「DXによって生まれた余力を、教育・研究という組織のコアバリューへ再投資する」という、これからの教育機関経営におけるひとつの「最適解」を示しており、まさに学校のコアビジネスをさらに筋肉質にする次世代の取組と言えるのではないでしょうか。