難度を増すサプライチェーンの適正化

製造業が検討すべきVUCA時代のサプライチェーンデザイン1~課題とトレンド~でも解説したように、今日のビジネス環境は、VUCA時代に突入しており、あらゆる物事の「不確実性(Volatility)」「不安定性(Uncertainty)」「複雑性(Complexity)」「曖昧性(Ambiguity)」が高まっています。製造業のサプライチェーンは、そんな時代を象徴するような状況にあり、これまでも、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の世界的な流行や大規模地震などの自然災害、国際紛争、さらには突然の原材料・部素材の不足・高騰といった不測の事態によって負の影響を受けてきました。

こうした自然災害や国際紛争、政情不安は、これからもさまざまな国と地域で起こりうるものです。

加えて、今日における製造業のサプライチェーンには環境問題や人権問題への配慮が強く求められ、CO2排出量の低減、あるいは人権保護の観点、言い換えればESG(Environment、Social、Governance:環境、社会、企業統治)の観点から、原材料や部素材、サービスの調達先(サプライヤー)を慎重に選ぶ必要性も増しています。

複雑化するサプライチェーンのトレードオフ
(図1)複雑化するサプライチェーンのトレードオフ

さらに言えば、製造業を取り巻く市場のニーズやテクノロジーは目まぐるしく変化し、そして進化しており、製造各社はその変化を俊敏に把握し、必要に応じて対応していかなければなりません。こうした状況の中で、グローバルに広がるサプライチェーンを適正化し、事業のサステナビリティを確保するのは難度の高い取り組みといえます。

例えば、サプライチェーンを適切に構築するうえでは、サプライチェーンにおいてトレードオフの関係にある要素について検討を重ねる必要があります。

かつては、その要素が、サプライチェーンの「サービス品質」と製品の「在庫数」、そして「コスト」の3点だけであったといえます。それが今日では、サプライチェーンが内包する数々のリスクやESGなども、トレードオフ関係にある要素として考えていなければなりません(図1)。要するに、サプライチェーンをデザイン(設計)するうえで、考慮すべき事柄が以前よりもはるかに多くなり、また複雑化しているということです。

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4つの主要市場のサプライチェーンの意思決定者1,000人が、自社全体のコストとビジネス支出の最適化、リスク管理、レジリエンスの構築、サプライチェーンの俊敏性の向上のためにどのようなことを計画しているのかをご参照ください。

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旧来型サプライチェーンデザインの限界

上記で述べたような状況の中で、製造業はどのようにしてサプライチェーンを築き、不測の事態や世の中の変化に対応していくべきなのでしょうか。
まず、重要な点として、サプライチェーンを適切にデザインし、「サプライチェーンネットワーク」「在庫水準」「モード(輸送手段)とルート」の最適化を図ることです。このうちサプライチェーンネットワークの最適化に向けたデザインとは、以下3つの取り組みを指しています。

  1. 収益性、サステナビリティ、成⻑性のバランスを考慮したサプライチェーンネットワークをデザインする
  2. 既存のサプライチェーンネットワークの分析を通じて、さらなるコスト削減とサービス向上に向けたネットワークをデザインする
  3. M&Aやサプライチェーンの地理的拡⼤などの計画を策定したり、計画を取り込んだりする
     

また、在庫水準の最適化に向けたサプライチェーンのデザインとは、以下の6つのポイントを指しています。

  1. ネットワークコストなどの制約条件を勘案しながら在庫を最適化する
  2. 望ましいサービスレベルとコストの実現に向けて安全在庫の量や在庫の配置を最適化する
  3. シミュレーションとシナリオ分析により、ポリシーのテストと在庫⽬標の微調整を行う
  4. 「モードとルート」の最適化に向けては、項目5,6,7を決定、調整することになります。
  5. 必要なサービスを最小限のコストで提供するための最適なフリート(輸送車両)数を決定する
  6. 航空・海上・トラック輸送のタイミングと場所を把握する
  7. 配送や集荷のタイミングや頻度を決定するために時間軸での出荷バランスを調整する

前述したとおり、今日ではこうしたサプライチェーンのデザイン時に、ESGの観点を取り込み、多様なリスク(地政学的なリスクや地勢リスクなど)をサプライチェーンデザインで事前に想定することが必要になります。

今、私たちが経験しているリスクやESGのような複雑なトレードオフにより、通常は長期的なサプライチェーンの設計領域で行われていた多くの企業の意思決定が、より頻繁に発生する意思決定になりつつあります。

多くの製造業社も、このようなサプライチェーンデザインを実施してきたと思います。しかし、多くの場合、サプライチェーンデザインを抜本的に見直す頻度が低く、数年に1度のサイクルでしかデザインの見直しを行っていません。(図2)

仮に、その手法をとり続けた場合、不測の事態や変化に対処療法的な施策を取ることが多くなり、サプライチェーンの複雑化を招くことになります。

継続的なサプライチェーンデザイン
(図2)継続的なサプライチェーンデザイン

継続的サプライチェーンデザインの勧め

繰り返しですが、製造業のサプライチェーンはVUCA時代に突入しており、いつ、どこで、どのような事態、変化が発生するのか見えない状況が続いています。この状況は、昨日の時点で最適だったサプライチェーンが、翌日にはそうではなくなるような事態がいつでも起こりうることを意味しています。

そこで重要になるのが、サプライチェーンデザインの継続的な改善を図ることです。言い換えれば、サプライチェーンをデザインして、変化に対応した製品供給の計画を立てて実⾏し、その結果をまたサプライチェーンのデザインに反映させるといった、継続的でダイナミックなデザインプロセスを構築することが重要になるということです。(図2)

こうしたデザインプロセスを築くためには、サプライチェーンのデジタルツインを構築して可視化し、シミュレーションによって最適解を導き出したり、意思決定を支援したりするITソリューションが必要とされます。

例えば、Coupaは、サプライチェーンの継続的なデザインと計画策定を支援する「サプライチェーンデザイン&プランニング」と言うソリューションを提供しています。これは、デジタルツイン機能を使用してサプライチェーンを可視化し、適切なサプライチェーン戦略や計画の立案を支援するシステムです。

サプライチェーンデザイン&プランニング」を使用することで、製品の生産ラインや、配送ルート、在庫、顧客ニーズなど、サプライチェーンを構成するさまざまな要素をモデル化して、多数のデザインシナリオを実行し、評価できるようになります。

これにより、ユーザー企業は、コスト削減やリスク管理、あるいはCO2排出量の低減といった目的を達成するための最適な戦略を迅速に策定することが可能になります。また、SCDPによって、サプライチェーンの将来のトレンド予測やリスク予測も可能です。

加えて、Coupaのサプライチェーンデザイン&プランニングのソリューションを使用すれば、シナリオに基づいて、すでに存在する在庫と調達すべきものを特定することが容易になります。

この機能を活用し、調達すべきものを絞り込んだのちには、ソーシングイベントを立ち上げ、コスト、サステナビリティ、リスクスコアなどの属性に基づいて適切なサプライヤーを選択することが可能になります。

 図3:Coupaのサプライチェーンデザイン&プランニングのソリューションイメージ
図3:Coupaのサプライチェーンデザイン&プランニングのソリューションイメージ

Coupaのサプライチェーンデザイン&プランニングのソリューションは、すでに多くの企業に導入され、実績を上げています。例えば、とある大手医療機器メーカーは、コロナ禍による製品需要と製品構成の急激、かつ大幅な変化にサプライチェーンを適合させるべく、Coupaのソリューションを導入。

自社のデジタルツインを構築してサプライチェーンを可視化し、サプライチェーンにおけるネットワークの分析やサービス対コストの分析、最適化シナリオの作成・評価のスピード、効率性を大幅に高めました。結果として、各種プロジェクトの実施速度が35%向上したほか、新たな価値を創出するまでの時間が劇的に短縮されたといいます。

VUCA時代は今後も激化していくと言えるでしょう、製造業界に対して環境保護や人権保護を求める声は今後も高まり続けると考えられます。

これからの時代に対応するための一手として、継続的なサプライチェーンデザインの遂行を検討し対策していくことは製造業として必須になっていくでしょう。

Coupaは製造業が直面するサプライチェーンの課題解決を支援します、詳しくはサプライチェーンデザイン&プランニングの製品ページをご覧ください。