地政学的リスクや気候変動などによりビジネス環境が複雑化している今の時代において、戦略的なソーシングは企業の競争力に影響する重要な業務です。
2025 年7月 29 日に開催された Coupa 主催のイベント「Inspire World Tour Tokyo〜持続的成長を実現する支出変革と AI 活用の未来〜」では、Coupa 株式会社ソリューション・アドバイザーの内浦大海が登壇し、Coupa の戦略的ソーシングソリューション(CSO)の機能をデモンストレーション(以下、デモ)。またセッション後半には、CSO 導入でソーシングの変革を進める高砂香料工業株式会社(以下、高砂香料工業)調達本部 調達企画部長 兼天然香料戦略室 室長の榎本慎一氏に登壇いただき、CSO の導入背景や効果についてお話をうかがいました。
IT 部門に負担をかけず迅速に調達改革を実現
冒頭に Coupa の内浦は、世界経済がここ数十年で最も大きな構造転換期を迎えていることを指摘。地政学的リスクや気候変動、輸送の容量不足、関税といった様々な要因から、サプ
ライチェーンは変化や再構築を余儀なくされており、その結果、潜在的なボトルネックが増加していると説明します。
「こうした時代背景の中で、ソーシングにおいても不測の事態に備え、柔軟に対応できる選定と配分を常に考えていかなければならない」と内浦は主張。その上で、まず調達部が抱えるソーシング領域の業務課題をプロセスごとに整理します。
ソーシングについては、Coupa の顧客でもシステム化が進んでおらず、今もマニュアル作業が残っている企業が多いと内浦。そのため、担当者に依存した属人的なやり取りで交渉履歴が残りにくいほか、選定に関してもベテラン担当者の経験や勘に頼るところが大きく、選定のノウハウが若手に引き継がれないといった問題が生じています。
さらに前述のような地政学的リスクや ESG のトレンドなど変化の激しい時代であるため、ベテラン担当者であっても適切な判断が難しく、デジタル化で対応しようにも IT 部門は慢性的なリソース不足に陥っている状況です。
このような問題への対処には、IT 部門に負担をかけず迅速に調達改革を実現できるクラウドベースのソリューションが有効です。
Coupa では、カテゴリーやイベントタイプに合わせて2種類のソーシングソリューションを提供。そのうち Coupa Sourcing Optimization(CSO)は、直接材や輸送など地政学的リスク等の影響を受けやすい複雑なソーシングに特化したソリューションです。
CSO の特長について、内浦はこう説明します。
「CSO には最適化エンジンが備わっているため、無制限に What-if シナリオを作成できます。価格、品質、サプライヤーリスクなどのトレードオフをモデル化することで、これまではベテラン担当者の頭の中だけにあったノウハウを全社員で共有することが可能になり、属人的なマニュアル業務の削減や、ひいてはガバナンスの強化にもつながります」
さらに内浦は、グローバルでの実績値を紹介。従来の手作業でのソーシングと比較して、工数の 50~80%、コストの 10~15%以上の削減を達成しているといいます。
また実際に導入した企業では、大規模なシステム変更をしなくても、ESG やサプライチェーンリスクを考慮に入れたソーシングの高度化が実現できていると内浦。導入は早い場合だと数週間で完了するといい、高砂香料工業をはじめ、サントリーや BMW、P&G などCSO を利用する国内外のリーディングカンパニーを紹介しました。
様々なパターンのシナリオを作成し瞬時に分析
続いて内浦は、実際に CSO を操作しながら、その機能や仕様を説明。まず CSO では、右上のヘルプからガイダンスを設定することで、イベントを実行するチームのメンバーが画面
の遷移に従い作業することができます。
「ベテランの社員やソーシングのカテゴリーマネージャーがイベントのテンプレートやガイダンスを作成しておけば、各メンバーはそれに従ってソーシングを実行できるので、組織の平準化および業務の可視化が可能です」と内浦は補足します。
次に見積イベントのサンプル画面で、CSO による具体的なソーシングの最適化について紹介。CSO の一番の特長である最適化エンジンを使ったシナリオベースの分析機能について、デモンストレーションを行いました。
見積イベントとは、入札サプライヤーからの回答件数や、参加中のサプライヤー数、見積依頼を出した品目数に加えて、当初見込んでいた基準価格からどれだけ節減できるかなどをダッシュボード形式で確認できるページです。
「例えば、価格を重視するバターン、集中購買するために調達先を4社に絞り込むパターンや反対にリスク分散の観点から偏りを回避するパターン、あるいは既存の契約を重視したりESG を考慮したりと、好きなようにシナリオを組んでいくことができます」
さらに内浦は、デモ用に作成された8つのシナリオのうち、ESG を考慮して設定されたシナリオをクリック。ESG スコアが一定基準を下回るサプライヤーを選択対象から除外するなど、さらに制約条件を設定できることを例示しました。こうした価格以外の要素を入れた場合でも、シナリオ分析の画面では実際の価格や選定先の配分がどのような影響を受けるのかが確認できるといいます。
「人の手で計算しなくても条件の設定を変えるだけで瞬時に結果が表示されるところがポイントで、いろいろ試すことで企業としての落としどころを探っていくことができる」と内浦は強調します。
外部データ連携からサプライヤー管理まで一気通貫で実現
続いて、イベント開始に必要なデータを準備・管理するための操作について説明。例えば見積イベントでは現行の価格表や輸入課税のテーブル、ESG 評価レートといったデータが必要ですが、CSO はオープン API モデルを通じて外部のデータソースと接続し、各種のデータを取り込むことができるといいます。
また、直接データをアップロードすることも可能で、内浦は実際に Excel ファイルのアップロードを実行。
「ファイルをアップロードすると、システムがデータを検出してカラム名を抽出してくれるので、取り込みたい項目だけを選択できます。さらにデータのフォーマットもシステムがチェックして、数式等が含まれていても可能な限り自動で再現してくれるため、文字通りアップロードするだけでコーディングなどは必要ありません」と内浦は説明します。
次に内浦は、サプライヤーに見積依頼を出す品目や、回答を求める項目を設定するページを紹介。アイテムのページを開くと、サプライヤーに見積を出している品目それぞれに対し、補足するデータが確認できます。「先ほどインポートしたデータを含め、外部の様々なデータを CSO 上に集約して利用できる」と内浦。
また、サプライヤーに回答してほしい項目についても、単価やリードタイムといった基本的なものだけでなくより詳細な要素の追加ができるほか、ESG スコアの表示・非表示や、外部データを自動的に参照するような計算式をシンプルかつ柔軟に設定できるといいます。
さらに、サプライヤーから取得した見積回答は効率的に管理し、各サプライヤーの回答をリアルタイムに把握することが可能。自動フィードバックの機能を使うと、各サプライヤーに現在の順位が通知され、より良い条件の提示を促すことができます。
「実際、2 回目の価格回答では平均して 2.5%価格が下がるといった統計データが出ています」と内浦は強調します。
「こうした設定はテンプレート化できるので、毎回設定しなくても保存したテンプレートを繰り返し利用できます。また、報告メールやデータの取り込みなどの作業を自動化する機能や、CSO で取り込んだ全てのデータを好きな形で抽出し可視化できるレポーティング機能も備えています」と内浦は説明し、デモを終えました。
直接材の戦略的ソーシングで業務効率化をスピード達成
セッションの後半には、高砂香料工業の榎本氏が登壇。同社は 1920 年創業し、世界の 28の国と地域に拠点を設ける香料会社です。主要な事業はフレーバー、フレグランス、アロマイングリディエンツ、ファインケミカルの4部門で、世界各地から何千種類もの天然・合成の原料を調達。「取引先も多岐にわたり、原料調達においてグローバル連携が必須である」と榎本氏は説明します。
榎本氏が部長を務める調達企画部は直接材である原材料のソーシング機能を担い、QCD と「責任ある調達」の融合を目指しています。サステナビリティや調達関連情報の収集・管理、リスクアセスメント、ナレッジマネジメントなどの効率化・高度化に向け調達 DX にも注力しており、その一環として Coupa CSO を導入しました。
CSO 導入の背景として榎本氏は、同社が抱える3つの調達課題とそれぞれの解決方針を挙げます。
調達コストの削減
資源価格が高騰する状況下で継続的なコスト低減を目標
<解決方針>
● グローバルでの成果の可視化、ベストプラクティスの横展開
● バイヤーがより付加価値の高い業務に注力できる環境構築
● あらゆる調達・取引データの蓄積、活用
複雑な入札業務の効率化・標準化
一部の業務は属人化しており、ベテラン社員の知識と経験に支えられているのが現状
<解決方針>
● グローバル共通で利用できるシステム・データ基盤の構築
● バイヤーの経験値のシステム化(複雑な要件を考慮したシナリオ分析の効率化・自動化)
● 交渉過程の可視化によるガバナンス、リスク対策の強化
環境配慮など多様化する調達評価項目への対応
コストだけではなく「責任ある調達」要件を含めた対応が必須
<解決方針>
● カーボンフットプリントなど「責任ある調達」の実現に必要な調達評価項目の追加
● 多様な評価項目を考慮した複雑なシナリオ分析の実行
これらの要件を満たすシステムの選定に1年以上をかけたと榎本氏。「業界他社のベンチマークから始めて、ベンダー複数社について費用及び機能を比較した」と話します。
Coupa CSO を選んだ理由については、以下3つの観点があったといいます。
- 他社が間接材寄りの機能を充実させていたのに対し、Coupa CSO は当社が求める直接材の見積業務に必要な機能が十分に揃っている
- タイムリーにデータの可視化ができる
- 「責任ある調達」要件を組み合わせた複雑な調達シナリオの実現及びシナリオ分析の効率化・自動化ができる
導入プロジェクトは 2024 年3月にキックオフし、同社の3名のスーパーユーザーと Coupaのサポートチームとで打ち合わせを重ね、7ヶ月後の同年 10 月に稼働開始。手始めに戦略的原材料カテゴリーについて見積依頼をスタートさせました。
実際に Coupa の CSO を見積依頼に使ってみて、「タイムリーなデータの可視化が可能なので、原材料別のコスト比較だけでなく、サプライヤー別やバイヤー別の成果やコストの比較もできるようになった」と榎本氏。稼働からまだ半年しか経っていませんが、すでに業務効率化の効果として年間 500~600 時間の削減が確認されているといいます。
最後に榎本氏は、高砂香料工業の今後の展望として、「直接材の見積管理品目の拡充」、「蓄積されたデータの活用による新たなコスト削減余地の可視化」、「カーボンフットプリントなど環境要素を加味したシナリオ分析の高度化」の3つを提示。その準備として、CSO の RFI 機能を活用した情報入手を進める予定であると話します。
それに対し内浦は「Coupa として一丸となってサポートしていく」と榎本氏に応え、セッションを終了しました。