多くの企業が物流への影響や必要な対策を把握できていない

物流を取り巻く環境が大きく変化する中、国は物流革新に向けた政策パッケージを展開しています。従来の国土交通省に加え、経済産業省や農林水産省を交えた新たなガイドラインも提示されています。

なかでも注目すべきは「商慣習の見直し」です。2024年には労働基準法・改善基準告示が改正され、ドライバーの労働時間規制が強化。時間外労働や拘束時間、休息期間などが厳しく制限されます。

「こうした規制改革やガイドラインの策定で、社会的関心は高まっているものの、自社の物流への影響や必要な対策について、正確に把握できていないケースが多く見受けられる」と大里氏は指摘します。

規制強化後、配送できない可能性が明らかに

2024年問題で物流にどのような影響が出るのかについて、Coupaではシミュレーションが可能です。アビームコンサルティングが支援する株式会社ジェイアール東日本物流(以下:JR東日本物流)の例を見ると、労働時間規制とドライバー不足の深刻化により、既存の配送先へ配送できなくなる可能性が出てきました。

ではどのように影響分析に取り組めばよいのでしょうか。物流の問題は、輸配送のパフォーマンスに着目しがちですが、大里氏は「発地から着地のオペレーションを含めた一気通貫での分析が必要だ」と指摘します。

発地からどう荷物を運べるのか、荷下ろし先での作業内容、倉庫の保管能力を考慮した輸送頻度など、多面的な制約条件を考慮する必要があります。そのためにはCoupaのようなシミュレーターが必要なのです。

物流2024年問題に向けて、いま求められる改革とは〜仮説検証から情報分析まで〜

アビームコンサルティングでは、JR東日本物流が昨年実施した物流再編プロジェクトを支援しました。JR東日本物流では、JR各駅の駅ナカ・駅ソトにある店舗に対し、食品や雑貨の物流を提供しています。駅を起点にした独自の店舗展開や、常温から冷凍への4温度帯での対応が必要など、物流上の制約が大きいことが特徴です。

そうした中、「環境変化への対応」と「リソース活用の最適化」が課題になっています。環境変化への対応では、これまで経営上の理由から個別拡張されてきた物流拠点の統合などが求められています。

また、リソース活用の最適化では、4つの温度帯を備えていることを武器としつつ、物流統合による効率的な物流体制の構築が求められます。さらにドライバーの労働時間規制に対応するため、車両効率の向上も必要です。

物流2024年問題に向けて、いま求められる改革とは〜仮説検証から情報分析まで〜

定量的・俯瞰的な分析手法の確立が物流課題解決の鍵

JR東日本物流の物流改革プロジェクトでは、CoupaのSCD&P(サプライチェーンデザイン・アンド・プランニング)が採用されました。その背景には、複雑な制約条件が挙げられます。物流の問題はトレードオフの関係にあるため、複雑なシミュレーションが必要です。それらをExcelなどで取り組むには専門性が必要で属人化が進む可能性があるため、専門のソリューションであるCoupaを活用することにしました。

シミュレーションでは、拠点数と立地、拠点ごとの機能で、合計26のパターンを設定し検証。その結果、JR東日本物流では温度帯混載の統合拠点を1つ設置するほか、中継機能を活用した遠隔地への配送に取り組むことで、物流機能全体の最適化が図れることが分かりました。

温度帯混載に向けた目標値を定量的に示すことができたことで、将来の物流ネットワーク構築の定量的な材料を揃えることができました。現在は拠点設計に取り組んでおり、ステークホルダーを含めた合意形成に努めています。

物流2024年問題に向けて、いま求められる改革とは〜仮説検証から情報分析まで〜

大里氏は、物流課題の解決には「定量的・俯瞰的な分析手法の確立」が重要だと指摘します。

単にデータを可視化して配送のパフォーマンスやKPIを見るだけにとどまらず、様々な仮説の検証に取り組むことが求められます。こうした基盤を作ることで、荷主を含めた抜本的な改革に取り組むための議論を建設的に進める足がかりとなります。

物流情報を持たないバイヤー企業での改革

ここまでの話は発荷主側での取り組みについてでしたが、着荷主側にも物流改善が求められる社会環境に変化してきています。物流の情報を持ち合わせていない着荷主企業はどのように取り組めばよいのでしょうか。

持続可能な経営のためにバイヤー企業も物流の状態を把握し改善する必要がある中、情報収集や管理のための仕組みが確立できていないのが現状です。その原因には情報収集と複雑な構成要素が挙げられます。

情報収集は、各サプライヤーからの情報連携の方法やタイミングに影響されます。個別に連携される情報を一元管理するためにマニュアル作業が発生し、作業効率を悪化させています。加えてサプライヤーの情報内には複数の拠点が含まれているほか、物流会社も異なるため、それらを分析に活用できる状態で管理するためには、煩雑な作業が伴います。

物流2024年問題に向けて、いま求められる改革とは〜仮説検証から情報分析まで〜

情報収集から分析までを一気通貫するプラットフォームの活用

バイヤー企業が物流情報の収集から管理、分析、改善のために、Coupaをはじめとしたデジタルプラットフォームが活用できます。情報収集では、プラットフォーム上でアセスメントのためのアンケート実施や、外部システムとのデータ連携による情報収集が可能です。

その結果をもとに、分析、評価までのプロセスをプラットフォーム上で一気通貫で実現できます。1つのプラットフォームで全ての物流情報を管理することで、システムによる分析評価が可能となるだけでなく、より効率的で高度な分析評価が可能です。こうしたプラットフォームは着荷主企業の物流改善を手助けしてくれます。

物流2024年問題に向けて、いま求められる改革とは〜仮説検証から情報分析まで〜

物流環境の変化により、従来の物流を実現できなくなる可能性が高まる中、様々な物流条件を考慮した全体最適での改革が求められます。リスク回避のためには物流情報の収集から分析、可視化のための仕組みを構築し、施策策定と実行を通じた物流負担の改善に取り組むことが必要です。